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俺はまだまだやなぁ。
Aのことも、紫耀のことも、まだまだわかってへん。
そらそうか…
俺自身のことだって、まだまだわかりきってへんのやもんな。
目の前で繰り広げられている、温もり溢れるAと紫耀のお母さんの会話に、そんなことを思った。
「あの人…あ、Aちゃんのお父さんね、何を思ったのかAちゃんが産まれた時に、私に写真付きのメールを送ってきたの。
信じられないでしょ？」
「…すみません……」
「ううん。きっと悪気はない…そういう人なのよ。
私ね、産まれたばかりのAちゃんが写ったその写真を見てね、すごく可愛いと思った。」
「…」
「この子が紫耀の妹なんだ〜って、仕事掛け持ちして育児に家事にいっぱいいっぱいだったのに、呑気にそんなことを思ったの。」
「…」
「産まれた時はね、みんな裸なの。
世界中誰だって、みんな裸なの。
十字架を背負って産まれてくる人なんていないのよ？」
「………はいっ……」
「あなたの命が宿った過程は決していいものではなかった。でも、あなたの命を恨んだことなんて一度もないの。
だからもう謝らないで？
堂々と胸を張って生きていって欲しいの。」
そう言って紫耀のお母さんに手を握られたAは、言葉も出ないほど泣きじゃくっていて、
2人のそんな姿を見ていた紫耀もまた、恥ずかしげもなく涙を流していた。
産まれた時はみんな裸。
当たり前のことで、誰でも知ってることやけど、普段そのことを意識することはなかなかない。
いつのまにか、見栄やプライド、劣等感に猜疑心…ありとあらゆる荷物を身体中にまとって。
そして余裕がなくなった俺たちは、いつも忘れてる。
すっかり忘れてしまってる。
何より大切なものは、この身体と、そこに宿った生命であることを。
「来てくれてありがとう。」
大きな音をたててバイクが通り過ぎる。
Aは嗚咽を漏らしながら泣いていて、紫耀は盛大に鼻水をすすってる。
やけど俺には、紫耀のお母さんが口にしたその言葉がはっきりと聞こえた。
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作者名：P | 作成日時：2019年10月8日 22時
