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「え……待って、A。すぐ行くから」
「ごめんね…今日、約束やぶっちゃって…」
「そんなんええから、ちょっと待っ」
言い終わる前に紫耀が横から無理矢理携帯を奪って、
「おいAっ！行くな！勝手なことすんなよ！おいっ！」
叫ぶようにそう呼びかける。
やけど必死に留めようとする俺たちの想いが届くことはなく、通話は一方的に切られてしまった。
「紫耀…」
"どうする？"
そう訊ねるように紫耀へ目を向ける。
行ってもえんかな？
待つべきなんかな？
一体何がAのためになる？
Aが紫耀と喧嘩をして俺の家におった2週間、俺は悶々とそう考えるだけで、何もできずにおった。
「追っ掛ける。」
紫耀は押し付けるように俺に携帯を返した後、すぐに車の鍵を握り締め、迷うことなくそう言って玄関へ向かう。
シンプルに、かっこええと思った。
紫耀はいつだって一直線。
真っ直ぐに、躊躇することなく、最短距離で突っ込んで行く。
俺は？
俺はどう？
わかってたら、
Aの想いの真ん中がどこにあるんかわかってたら、触れられてた？
ううん。
怖かった。
怖くて触れられへんかった。
もし触れ方を間違えたら、君を傷つけてまうかもしれんから。
やから俺…届いたらアカンような気がしてた。
見たらアカンような気がしてた。
掴んだら砕けてまいそうで、掴むのを躊躇ってた。
ホンマはがむしゃらになってでも触れるべきやった。
紫耀みたいに、思うがままAの想いの真ん中に突っ込んで行くべきやった。
だって、
砕けたって、壊れたって、形は変わっても消えることはないんやから。
何が君のためになるんか、未来を知りえへん俺が考えたって確かな答えに辿り着くわけじゃないし。
それなら、信じるしかない。
「廉、まだ？」
靴を履き終えた紫耀が当たり前のようにそう俺を急かすから、
「ん、今行く。」
俺も当たり前みたいにそう返事をする。
信じて踏み出すしかない。
俺が今踏み出す一歩は、必ず君の笑顔に繋がるって。
繋げてみせるって。
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作者名：P | 作成日時：2019年10月8日 22時
