【wrwrd!】シェリアク【em】 (ページ5)

今日:1 hit、昨日:5 hit、合計:1,190 hit

【 5 】150時間ページ5

【 5 】
　
　
　「どうしたの？エミさん。」
　「嗚呼、Aさん。眼鏡を失くしちゃったんだ。体育の時に外して、机の中に入れといた筈なんやけど… 」
　
　
　エミさんはアメジストを揺らしながら頭を搔いた。
　
　
　「ボクも探すよ。」
　「あ、有難う。悪いなあ。」
　
　
　ふたりして教室を探し回る。
　しゃがんだり、ひっくり返したり、手を突っ込んでみたりしたけれど、なかなかエミさんの眼鏡は出てこなかった。
　
　
　「色んな説はあると思うんだけど、人間が最も人生で使う時間は睡眠。約3分の1。じゃあその次は？」
　「クイズ？」
　「そ。当ててみて。」
　
　
　エミさんが「うーん」と唸りながら、ロッカーを覗き込んでいるのが見えた。
　
　
　「趣味？」
　「それも正解かも。だけどボクは［物を探す時間］と聞いた。ソースは不明だから、あくまで諸説だけど。」
　「この時間かあ。」
　「そ。1年で150時間は物を探しているみたい、人間は。」
　「みんな失しすぎやて。」
　
　
　ボクが楽しくなって笑い出すと、エミさんもご機嫌な笑い声を教室に響かせる。
　もう誰もいない教室にいるのは、ボクたちだけ。
　
　
　「結構探したけど見付からないね。本当に机の中に入れたの？」
　「自信なくなってきてもうた……どうしようかな。」
　「コンタクトは？」
　「ない。」
　「今はどれくらい見えてるの？」
　「それなりには。ただ、黒板は見えへんかなあ。」
　
　
　エミさんが教室の後ろから黒板を指差す。
　私は視力がいいから見えるけど、エミさんは近視らしい。
　
　
　「取り敢えず先生に相談してみよう。今日見付からなかったら、ボクが家に送るよ。ひとりで帰るのは危ないだろ？」
　「ええ、平気やで。さすがにひとりで帰れる。」
　「危ないよ！電車を使うなら尚更。ボクに任せて。まずは職員室に行こう。」
　
　
　エミさんはブツブツ文句を言っていたが、ボクは強引に職員室に連れて行き、担任に眼鏡が失くなった事を話した。
　探しておくと言われたので、ボクはエミさんの腕を引きながら家路を着く。
　エミさんの家に送って行くのは、実は初めてだった。
　
　
　@
　
　
　翌日、男子トイレのゴミ箱の中からエミさんの眼鏡が見付かったと聞いた。