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「 そこを動くな！ 」
男の大声と共に悲鳴が聞こえて来た。
ボクとゴウトは振り返る。
日本刀を振り回す男が居た。
「 今から俺の言う事を聞け。さもないと誰かを殺す。 」
ショッピングモールのド真ん中。
全ての人間が息を飲んだ。
「 真犯人を探せ。［伊東市干物店強盗殺人事件］の。 」
ゴウトはボクに耳打ちをした。
「 2012年12月19日静岡県で、同店社長の女性Aと男性従業員Bが遺体で発見された事件だ。店内に設置された業務用冷蔵庫の中で、血を流して倒れている被害者を発見。冷蔵庫の外側には扉が開かないようにテーブルが置かれていたそう。2人の死因は刃物のようなもので首を刺されたことによる出血性ショック。警察は現金約29万円が奪われたと判断し、強盗殺人事件として捜査を開始したらしい。 」
「 Wikipediaが言ってた？ 」
「 嗚呼、Wikipediaが言ってた。 」
「 犯人は？ 」
「 約1年5ヶ月間同店に勤務していた元従業員の60歳の男。死刑判決が出て収監中だが、本人は無罪を主張している。 」
「 だから真犯人ね。 」
男性の身長はエミさんより少し高く、マスクと帽子から覗く猫目、全身真っ黒な衣装。
それ以外の特徴は、声が震え相当怒っている事だけ。
「 質問をしてもいい？ 」
ゴウトが手を挙げる。
男はゴウトに話す様に促した。
「 貴方は死刑囚の息子？ 」
「 何故そう思う。 」
「 家族以外は死刑囚に興味無いでしょ。 」
ボクはゴウトの後ろに隠れながらスマホでエミさんにLINEを送る。
今の状況を説明し、通報して貰おうと思った。
「 どうして真犯人を知りたいの？ 」
「 冤罪だからだよ！ 」
「 どうして冤罪である事を信じてるの？ 」
「 本人が否定してるだろ！ 」
「 じゃあ逆に貴方は誰が真犯人だと思うの？ 」
男は「うるさぁい！」と怒鳴った。
ボクはゴウトの稼いでくれている時間を無駄にしたくないと思い、LINEを送り続ける。
それでも既読にはならなかった。
「 それを探せって言ってるんだ。 」
「 知らない、そんなの。貴方のしたい事は、貴方だけがしたい事。私達は興味無い。 」
ゴウトの声は冷たかった。
［今、ショッピングモールで日本刀を振り回す男に遭遇している。彼は客を人質に取った。今直ぐ通報してくれ。これは嘘なんかじゃない。頼む。］
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作者名：七瀬 波子 | 作成日時：2021年10月18日 7時
