白百合の少女 (ページ20)

今日:2 hit、昨日:2 hit、合計:8,544 hit

Episode18 下準備ページ20

ルース・カシムはその日、Cブロック本戦が行われているボルゴグラード・ウォルガ・ドン運河スタジアムに足を運んでいた。
スタジアム裏手の人気の無い通路を通って真っ直ぐVIPルームを目指す。入口の前にはSPが2人。特に言葉を交わすことも無く、目配せのみをして扉を通過すると、目の前にある重厚な造りのソファに目当ての人物の姿があった。

「失礼致します。報告に参りました。」

現在行われているイタリアVSイングランドの試合を観ていたであろう。ワイングラスをサイドテーブルに置いて振り返ったそのお方は、眉間に少し皺を寄せてルースを見た。

『対面での報告は避けるように言ったはずよ。』

流石は"冷酷非道な魔女"と影で囁かれるだけはある。膝を折るルースを虫けらを見るような目で睨む光景はまるでヘビに睨まれた蛙のようだ。

「お時間を取らせてしまい、申し訳ございません。重要な案件ですので直々にご報告に参った次第でございます。」

『手短に話しなさい。私は忙しいのよ。』

目の前の試合はイタリアが2点差をつけたまま後半戦を迎えている。

「ご子息の…フロイ・ギリカナンがオリオンに反発する動きを見せています。放置すれば明後日の日本との試合に不利に働くかと…」

『オリオンに従わないというのはアレが勝手に言っている事よ。ベルナルドには少しお灸を据えるよう、既に支持を出してあるわ。お前の耳にも入っている筈だけど、まさか聞いていないなんてことはないでしょうね？』

「勿論存じ上げております。しかし、それだけではないのです。日本に寝返った元オリオンの使徒である一星光と定期的に接触している様子も見受けられます。一星は野坂や鬼道に並ぶ司令塔の1人。此方の情報を握られれば試合前に対策を立てられてしまうでしょう。」

ルースの中にはなんとしてでも日本戦に間に合わせなければ、という焦りがあった。

『お前がそこまで饒舌なのは珍しい。それで策はあるのか？』

「ベルナルド様からの指示をベースにした上で全て僕に一任して頂きたいのです。考えがあります。」

『いいわ、任せましょう。くれぐれも私の信用を裏切らない事ね。』

魔女の部屋を後にし、宿舎に戻ったルースはユーリに囁く。

「もちろん、協力してくれるよね？」