粉ふきいも ページ28
「ねぇ、木舌さん、あの、本当にこっちなの?」
「んー? そう」
段々と歩きが速くなり、こちらは軽く走っている状態だ。なんとか落ちていたものは拾っているものの、彼は先程からグネグネと同じ道を辿っているように思える。
「ちょっと、待って。あの、だって速いんだもの。落ちてる物も見逃してるかも」
其処まで途切れ途切れになりながらも告げると、彼がいきなり止まってこちらを振り向いた。
木舌さんじゃない。
「ひっかかったね、ひっかかったね、ひっかかったね。さっきからずっとずっとずっとずっと私だったのにね! あはははは」
「ぁ、え」
「んーんーん? なぞなぞなぞね! 信号無視の事故、1番悲しいのはだぁれー?」
「…、ひっ!」
どんどん彼の被り物を着た誰かの手が私の頬へ伸びてくる。どんどんどんどん。
「間違えたらね、頭ちょうだい。無いの無いの無いの私の頭。いたいいたいいたいいたい」
「ぁ、は、ぇ」
口を必死に動かしても出てくるのは情けない呼吸音だ。頬に手が付いた。スルスルと首へ。
「あーとちょっとね、あーとちょっとね。ふふふふふふふ、頭頭頭頭頭頭頭頭!!!!」
必死に考える。信号無視の事故、1番悲しいのは。被害者、加害者、車、家族。どれだろうか。呼吸が上手くできない。怖い。
どん、と後ろへ投げ飛ばされる。身体が宙に浮いて、落ちる。
「下がって!」
斧と、大きい背と、それから、緑色の目。木舌さんの偽物は見て分かるように焦り始め、本物と同じ様に斧を構える。
妙に冷たい空気が流れ、彼が息を吐いたその一瞬だった。ばがん!と音が響き目を瞑る。
そうっとあけてみると木舌さんがしゃがんで何かを拾った。こちらへ近づいてくる。
「危機一髪だった? 後ろ見たらいなくてさ。もう大丈夫。ちょっと休もうか」
頬を掻きながら彼は私の隣へ座り、指を組んだ。その手に血が滲んでいるのが見えた。赤い。
ハンカチがあったと思い出し、ポケットから出して彼の手を取り強引に巻きつける。
「いててて、そのハンカチいいの?」
「お礼。あ、りがっとう」
「泣かないで、おれが泣かせたみたいじゃない」
「ごめっ、なさっ、私、本当に」
「ああいたいいたい涙がしみるって、ほら、大丈夫だから」
目からはどうしようもなく涙が流れてくるし、それを丁寧に拭いてもらって更に申し訳なくなるし、恐怖が追いついてやってくる。ハンカチを巻かせてもらった手で頭を撫でられる。
「ふわふわ」
彼は満足そうに笑ってそう言った。
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おりょうり(プロフ) - 亜鉛さん» 初めまして。最後までお付き合いありがとうございました。続きまで期待してくださりありがとうございます。ボチボチ頑張りますのでよろしくお願いします。本当にありがとうございました! (2015年9月4日 23時) (レス) id: 4a266f676d (このIDを非表示/違反報告)
おりょうり(プロフ) - Cm@すたーしょこらさん» 最後までお付き合いありがとうございました! 煮詰まったり展開に悩んだりしたのですが完結できて良かったです。本当にありがとうございました。 (2015年9月4日 23時) (レス) id: 4a266f676d (このIDを非表示/違反報告)
亜鉛 - 続き、出来たら見ます!楽しみにしてますね!まぁ、無理にとは言いませんけどね。気長に待ってます! (2015年9月4日 22時) (レス) id: 80557561c9 (このIDを非表示/違反報告)
Cm@すたーしょこら(プロフ) - ご馳走様でした。終わってしまうのはとても惜しいですが、読んでいてとても楽しかったです。 (2015年9月2日 22時) (レス) id: 9b965d834a (このIDを非表示/違反報告)
おりょうり(プロフ) - マミむめもさん» マミむめもさん、コメントありがとうございます。 完全に私個人が食べたいメニューとなっております。 これからも更新頑張らせていただくのでよろしくお願いします。 (2015年8月9日 19時) (レス) id: 4a266f676d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:おりょうり | 作成日時:2015年8月2日 21時