ネタを書き散らかすだけ【安室透/降谷零】 (ページ34)

今日:6 hit、昨日:7 hit、合計:12,772 hit

＊ページ34

.

　――とでも言うと思ったか馬鹿め。
　僕がみすみす獲物を逃すわけがない。まだ挑んでもいない勝負に自ら背を向け退散するなど愚者の蛮行である。
　僕の愛しい彼女(予定)の女性の名は(名字)A。もう名前が可愛い。
　彼女との出会いはまあ例の如く喫茶ポアロでのこと。詳細は長くなるのでここで語るのは止めとするが簡潔に言うと、僕の作っていたハムサンドを食べて笑った彼女の笑顔に一目惚れした。
　見ただけでこちらも幸せになれる、そんな笑顔。
　その笑顔を自分の手で産み出せたことにひどい幸福感を感じたし、この笑顔を引き出せるのは僕だけだという優越感がたまらない。
　そして、どうか、僕の隣で笑っていて欲しいと。他の誰よりなにより自分に笑いかけて欲しいと。そう思ったから。
　だから、彼女を手に入れたい。僕の執着心を舐めてもらっては困る。普段大事なものを作らないからこそ、それが出来た時は人一倍欲が嵩むのだ。チョロいとか言うな。
　そのためにはまずポアロを辞めて、彼女の前から「安室透」を消さねばならない。そして、今度は「降谷零」として彼女に笑いかけて欲しい。
　策を練って必ずや彼女の手を取ると決意した僕は、最後に「安室透」として彼女と過ごす一時が二人きりであったことに胸を高鳴らせながら、彼女が紅茶を飲む様を微笑ましく見つめた。

.
.
.

　しかしまあ、さしもの僕でもこの展開は予想できなかったというか。告白(無意識)をしてしまった彼女がたまらなく愛しいのは当然のこととして、この機会を逃すほど馬鹿な男ではない。臨機応変に対応し、時期が早まりはしたが、念願の彼女を手に入れることができた。
　顔を真っ赤に熟れさせて恥ずかしがりながら、それでも嬉しそうにするAは大層可愛らしい。一生大切にすると心に決めた。まだ早計？気にするな、確定事項だ。
　この時の僕は浮かれていたため、一番問題をほったらかしていた。
　「安室透」のまま、彼女と恋仲になったということを。

.