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「まあ日曜だし、いっか……。てかね、零くん。いくら私が眠りが深いからって、勝手にベッドに入るのはよろしくないんじゃないですか?」
「いまさらそれ言うのか? いつもしてるのに」
「なんとなく言う気になった」
「なんだそれ。だって、最高級の抱き枕が目の前にあるんだぞ。やわっこくて暖かい」
「セクハラ」
「いや違うって、純粋な心」
流石にもう起きるかと零くんの腕をほどきもぞりと起き上がる。欠伸が出た。
「零くん出てって」
「え?」
「着替える」
「ああ、はいはい」
そういってあっさりと出ていくあたり気遣いは出来るようだ。いや本当に気遣い出来るなら女の子の部屋に勝手に侵入はしないか。
はあ、とまたため息をついた。
私には悩みがある。
それは、好きな人が、私を幼なじみ兼抱き枕としか見てくれないことだ。
そもそも、これが始まったのはいつからか。思い出せないくらい遥か昔の話。
何が原因か忘れたけど、零くんが嫌なことがあったみたいで、へこんでいた。そこに私がやってきて、慰めた。抱き締めて。
たしかそれだけだった。
こんな稚拙な抱擁で気が休まるかと不安になったのをよく覚えている。だが人肌に触れるだけで安心感があるみたいで、彼は当時は薄っぺらかった私の胸に顔をうずめて、鼻声で『ありがとう』と言った。
今回想すると恥ずかしい。だって胸だよ。無理。
まあそれは置いておいて。
それからだ。彼はよく私を抱きしめる。
年を経て高校生になった私は女性らしいふくよかな身体になって、有り体に言うと太った。デブではない。断じて。しかしクラスメイトより少し太いというか、たくましいというか。
それを、いまだ彼は抱きしめる。すきあらばベッドに潜り込んで抱き枕にして寝てる。恥ずかしいのだ。
やめてほしい。正直、嫌だ。でも嫌じゃない。好きな人だから。
複雑な乙女心である。何が嫌って、嫌と言い切れない自分だ。好きな人の温もりを手放すのが惜しくて、強く言えない自分。
◇◆◇
幼馴染設定。
ふくよかな女の子のささやかで最も重要な悩み、みたいなのです。
わりと気に入ってます。できれば続きが書きたい。
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作者名:dear | 作成日時:2020年3月10日 2時