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改めて宿題に手をつけようとしたAのノートを覗き込んだとき、最近嗅ぎなれた甘い柔軟剤の香りがふわりと鼻をくすぐる。
｢Aちゃんと大倉くんほんと仲いいね〜！ 何してるの？｣
｢数学の宿題わからなかったから大倉に教えてもらってるの｣
｢えっいいな！ わたしも教えてもらいたい！ いい、大倉くん？｣
｢…いいよ｣
｢ありがと〜！ あ、なんかごめんね勝手にお邪魔しちゃって｣
女子の｢ごめんね｣は周りを思い通りに動かす最強の武器だ。
あんなこと言われたら｢はい いいですよ｣としか言えないじゃないか！！
宇崎さんが｢ここ、ここ｣と教科書を指さす。
わからなくて見せてきた問題の答えをノートに移し始めたAに、すごく申し訳ない気持ちがした。
｢ごめん宇崎さん、先にAの方教えてもいい？
先に言ってきたのAだから｣
｢えっあっごめんねAちゃん！ わたしほんと周り見れてなくて…｣
｢ううん、大丈夫だよ。ありがとう｣
Aの作り笑いに再び謝ったあと、宇崎さんは俺の隣(実際彼女の席だけど)に座り込んで、俺が宿題を教えているのをたまに首を突っ込みつつずっと見ていた。
やりづらさ満点。
｢んでここは合同やろ？ あとは錯角で＿…｣
｢はい！ もうわかった！ おけ！｣
｢大倉くんすごい！ ほんと教えるの上手いね！｣
宇崎さんからの拍手を受けて、返事の答えがわからず｢ありがとう｣と曖昧にはにかむ。
｢おっしゃー！ 終わった！ 先生に出してくるね！｣
女であることを忘れたかのような殴り書きのノートを雑に持ち上げると、Aは走って職員室に行ってしまった。
……二人きりなんですけど。
｢で、何を教えればいいの？｣
｢あっ！ えっとね、ここです｣
宇崎さんが指を指した問題は問題集の後ろの方の応用問題で、さっきのAが見せてきた問題とはわけが違った。
｢ちょっと待って、考えさせて｣
宇崎さんから問題集を受け取って考えようとしたとき、宇崎さんがぼそっと独り言のように呟いた。
｢どうして大倉くんはAちゃんと仲良くなったの？｣
ぞくり、と背中が波打った。
これは答え方を間違えると、無実のAが餌食になる可能性がある。
｢席が隣になったから｣
｢嘘だよ わたしだって1番最初の席隣だったもん｣
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作者名：吉田マーメイド | 作成日時：2018年6月12日 23時
