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藤井 A
── 急に連絡ごめんね
── 今から会えない？話したいことある。
会社からの帰路、LINEの通知が鳴った。戸川くんからだった。文面を見て嫌な予感がしたけれど、これを無視するのもなんだか気が引けて。想に帰りが遅くなる旨の連絡をして、戸川くんと再会を果たした居酒屋へと向かう。
「ごめんね、お待たせ！」
今日はこの前と比べてお客さんは少なく、店内が広く見える。その端っこの方の席に、戸川くんの姿があった。
「ううん、今来たところ」
「そっか」
「すみません、生ふたつで」
飲み物の注文だけ戸川くんはサクッと済ませた。飲み物を選ぶ時間も与えてもらえないくらい、緊迫していて大事な話なのだろう。そう感じ取りながら、向かいの席に腰をかけた。彼はまた、まっすぐ私を見つめている。このまっすぐな感じ、紬とそっくりだ。目を逸らそうとしても逸らせない。視線が拘束されているような感覚。
「それで、話って？」
「……俺、実家に戻ってたんだけどさ。想の家、行ってみたんだ」
「そうなんだ。どうだった？」
「想の妹に会った。スマホ壊れちゃったから、想の連絡先だけ教えて欲しい、って。嘘、ついちゃったんだけど」
「……うん」
「そしたら教えてくれて、連絡先……と、あと、聞こえないって。耳？……聞こえないって」
「…………」
知られてしまった。なんとなく予想はついていたけれど、実際に戸川くんの戸惑った表情を見ると、胸がきゅっと締め付けられる。
「聞いたよ。今想と付き合ってるんでしょ？」
「……うん、付き合ってる。隠しててごめん」
優しい人だ。私の謝罪に首を横に振っている。あまりにも大きな隠し事をしてしまったと言うのに、私を一切責めない。
「耳、聞こえないって……冗談だよね。想、そんな感じしなかったし。今でも、好きな音楽聞いてるでしょ？イヤホンつけてさ。元気にしてるでしょ？」
どうか嘘であってくれ。そう願う戸川くんの気持ちが、８年前、想に病気を告げられた時の当時の自分とリンクした。大切な友人の耳が聞こえなくなるだなんて、普通の会話ができないなんて想像したくもない。
「静かだよ」
「えっ」
「想のまわりだけ、今すっごく静か」
色々な感情が入り交じっているのだろう。その端正な顔には、耐えきれずこぼれた一筋の涙が伝っていた。
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作者名：澪 x他1人 | 作成日時：2022年12月19日 20時
