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藤井 A
「見掛けたって、どこで？」
「世田谷代田の駅のホームで。呼んでも、気づいてもらえなかったみたいだけど」
「そっか」
「……ねえ」
「ん？」
戸川くんが、私の目をじーっと見てくる。何かを見破られそうな気がして怖かった。胸が張り裂けそうだった。
「本当に、本当に何も知らないんだよね？想のこと」
「知らない。知らないよ。何でそんなに疑うの？」
「疑うっていうか……ほら、藤井も想と同じ時期に連絡取れなくなったし。もしかしたら２人、関係してるのかなって」
「期待に応えられないようで申し訳ないけど、ごめんね。本当に私、何も知らないの」
「そっか、そうだよね……こちらこそごめんね」
我ながら、演技が上手い。そう思う。戸川くんも、やっと私を信じてくれたみたいだった。
「ただ、高校生の頃みたいにまたみんなで集まってさ、あの時には出来なかったこと……ほら、居酒屋でお酒でも飲みながら他愛もない話して、会社大変だけどまた月曜から頑張るか〜って。そういう、普通のことっていうの？４人でまだ出来てないからさ」
「普通、か」
「うん。ごめん何か言い方変だけどさ」
ただ、想に会いたいだけなんだよね。
少し震えた声で呟くようにそう言った。戸川くんが何気なく発した“普通”って言葉が、胸にズシンとのしかかる。彼が望んでいる“普通”は、もう出来ない。
「でも……うん。見間違いか。見間違いだよね、紬の。だって、想が紬の声聞こえないはずがないし。紬の声で、佐倉くん！って呼ばれたら、気づくし。俺が想の立場だったら、絶対に気づくだろうから」
そう自分に言い聞かせてる姿を見て、天を仰ぐ。ごめんね、戸川くん。
「そうだよ。紬の声、聞こえないはずないよ。そんなはずない」
「うん」
「きっと、元気でやってるよ。悲しいことだけど、きっと高校の友達清算したかったんじゃないかな。新しい土地で、新しい仲間と過ごすために」
「そんなに俺たち、邪魔だったのかな」
「その逆だよ」
「えっ？」
これ以上、想を詮索するのならば傷つく人たちは大勢いるはず。戸川くんも、紬も、想自身も。でも、わかる。縁を切られた人たちの気持ちもわからなくはない。
「大切な人たちだから、思い出にしたかったんだと思う」
だから、想の気持ちだけは嘘偽りなく、私の見解として戸川くんに伝えた。
耳が聞こえない、という真実を隠して。
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作者名：澪 x他1人 | 作成日時：2022年12月19日 20時
