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佐倉 想
〈ごめんね〉
〈ううん。何か話あるの？〉
偶然だった。偶然、タワーレコードの前を通ろうとしたら、勝手口から青羽が出てきた。まさか、CDショップで働いているだなんて思わなかったから、びっくりした。この前のことを謝ろうと思って、仕事が終わるのを待つこと１時間。いつものカフェで、青羽と向かい合う。
〈湊斗、大丈夫だった？〉
〈大丈夫、大丈夫。久しぶりに会って、びっくりしてただけ〉
〈付き合ってるんだよね？〉
〈うん。もう、３年くらいかな〉
〈怒ってたでしょ？〉
〈本当に気にしなくて大丈夫だよ。佐倉くんに会うこと、湊斗に話してたし〉
〈湊斗に悪いから、もうふたりで会うのはやめよ〉
青羽と湊斗は、大丈夫かもしれない。でも、俺の頭にはAの顔が過っていた。青羽は待って、と音声翻訳アプリをテーブルの上に置いた。青羽が何か話す度に更新されていく文面。湊斗のことが大好きなんだよね、から始まったそれは、俺の胸にどんどん重りを乗っけられていくような、そんな感覚に陥らせた。
── 佐倉くんは今、Aと付き合ってるんだよね。
頷けば、青羽はにっこり微笑んだ。
── いいね。Aは人のことすごい考えられるし、佐倉くんのこと傷つけるようなこと絶対に言わないし、しないと思う。すっごくお似合い。なんなら、Aと付き合えてる佐倉くんが羨ましいくらいだよ。
良かった。青羽は変わらず、Aのことを好きでいてくれている。だったら、またふたりが会えればいいのにな、ってそう思った。でも、また次の文面で、俺の心にズシンと重りが乗っかった。
── だから、本当に気にしないでいいよ。お互いに好きな人がいるんだし。今はもう、佐倉くんのこと、高校の同級生としか思ってない。今好きなのは湊斗。佐倉くんは違う。好きじゃない。
“好きじゃない”だなんて、文字にされるとなんだか辛くて。俺も、今好きなのはA。青羽は違う。それなのに、青羽からの“好きじゃない”に、落胆している自分がいる。
〈湊斗、って呼んでるんだね〉
湊斗の呼び方が変わっていることに、本当にふたりが付き合っているんだ、って改めて思い知らされた。
〈わかった。気にしすぎだった。また連絡するね〉
そう告げて、俺は先に店を出た。
８年前、俺の病気のせいで青羽と離れ離れになった。離れたつもりでいたのに、心は高校生の時で止まっていた。
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作者名：澪 x他1人 | 作成日時：2022年12月19日 20時
