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藤井 A
手を引いて歩き始めてから、想はなんの抵抗もせずに黙っていた。家に着いてから手を離せば、想はしんみりとした表情で私を見つめる。悪いことをした、なんて思っているんだろう。
〈ごめんね〉
〈……大丈夫〉
紬に気があるから会いに行ったんじゃない、絶対。なんて、今の私に都合のいい解釈ができるほど余裕なんてなかった。とりあえず、この空気感から抜け出したくて早く会話を終わらせようと思ったのに。
〈大丈夫じゃないでしょ。なんで嘘つくの〉
〈嘘じゃないよ〉
〈昔からそうだよ。Aは、自分の気持ちに蓋してる。本当はどう思ってるんだろうって、いつも思う〉
想の言っていることは間違いない。わかっている。でも、今の想に私のことを言う権利なんてないと思った。普段だったら、思うだけだった。
「想だって、私に隠して紬に会いに行ってたじゃん……」
あえて手話はしなかった。きっと、これを出したら想は困ると思ったから。読唇術でも見破られないように、小さく口を動かした。案の定、想は困った表情をしている。
〈何？言いたいことあるなら、俺に伝えて〉
〈……なんで紬に会いに行ってたの？〉
〈青羽に、今大切な人がいるってこと、伝えに行きたかった〉
〈本当？〉
〈うん。言ったら止められると思って、言わなかった。隠しててごめん〉
納得なんてできなかった。いくら理由があろうとも、紬はかつての想の恋人。その事実は変わらない。
〈わかった。でも、高校の時の友達と会って辛くない？私はそれが心配なんだよ〉
〈最初はそう思ってた。でも青羽、手話覚えてくれてた。俺と話そうとしてくれた〉
それが嬉しかったのか、想から笑みがこぼれた。こうやって、私以外のことで笑っているのを見るのが久しぶりだった。嬉しかったけど、少し寂しかった。
〈そうなんだ。よかったね〉
今思えばあの日からずっと、支えてあげたいという一心で想のそばにずっといた。想からお願いされたわけじゃない。私がいたくて、一緒にいただけ。
〈青羽に謝らないと。何も言わずに帰ってきちゃったから〉
〈そうだね〉
〈Aも一緒に来てよ。もうふたりで会うのはよくないと思うから〉
〈……私はいいよ。ふたりで会ってきな〉
もしかしたら、もう私は必要ないのかもしれない。いや、元々想の隣に私がいることが間違いだったのかもしれない。
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作者名：澪 x他1人 | 作成日時：2022年12月19日 20時
