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戸川 湊斗
ただただ、２人の仲が険悪なものになってほしくなくて。また高校の時みたいに戻って欲しかったから。藤井なら、昔みたいに、戻れると思ったから。また２人に会って欲しかった。
『もしもし』
「あっ、紬。今、家？」
『あっ、うん。もうすぐ着くとこ』
「そっか。今さ、ちょうど藤井と出会して、今度２人でハンバーグ……」
２人で予定立てなよ、ってすぐさま紬にした電話。踏切の先に見えたもので、俺の歩き出した足はぴたりと止まってしまった。それに続いて、藤井の足も止まる。
『んっ、ハンバーグ？何？……あれっ聞こえてる？湊斗？』
視線の先には紬。と、８年前より少し大人びた想。動揺して、何も言葉が出てこない。
『湊斗、』
「紬が好きそうなハンバーグのお店、先輩が教えてくれて。藤井ともまた会えたんだし、今度２人で行ってくれば、って」
紬の視線が、俺の隣にいる藤井に向く。藤井はと言うと、俯いて肩にかけた鞄を力強く握りしめていた。想は、不安げな表情で藤井を見つめている。
「戸川くん、」
「ん？」
「ごめん。ハンバーグ、２人で食べに行って」
藤井はスタスタと紬と想の元へ歩いて行き、想の手を取るなりそのまま去ろうとした。せっかく、会えたのに。俺は、２人の後を追って名前を叫んだ。
「想……想、」
「湊斗、」
「想！」
少なくとも、藤井は俺の声が聞こえているはずなのに、こちらを見向きもせずにそのまま歩いて行ってしまった。想には、俺の声は聞こえていない。何かの間違いであってくれ、ってずっと願っていたけれど。現実が重く自分にのしかかる。
「ごめんね。今日って伝えとけばよかった。突然会ったらびっくりするよね……ハンバーグ。多分A、私とはもう話したくもないだろうから。食べ行こ、２人で」
「ごめん……今日じゃなくていい？」
「えっ、行こうよ」
「いいって！」
紬の手を振り払ってしまった。驚いてる。今まで、紬に対してこんな感情的になったことなかったし。俺自身も、紬も驚いていた。
「ごめん。また連絡するね」
紬に背を向けて歩き出す。頭の中で、藤井が想の手を引き歩いていく姿が浮かび上がる。何故だかわからないけど、少しモヤモヤしていて。高校１年生の時の感情が、蘇ってきたような気がした。やっぱ、藤井は想なんだ、って。俺には今、真っ直ぐに俺だけを見てくれる紬という存在がいるというのに。
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作者名：澪 x他1人 | 作成日時：2022年12月19日 20時
