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藤井 A
「いや、本当何年振りよ！」
「卒業以来だから……うーん、８年、かな」
野本くんに背中を押され、無理矢理席に座らされた。戸川くんと西田くんの間で、みんなから８年もの空白の時間について質問攻めに合った。片手に持っているビールも、なかなか進まない。
「上京してきたのは就職のタイミング？」
「ううん、大学入学の時にひとりで」
「そうだったんだ」
かなりお酒が回っているからなのか、久々の再会に胸を躍らせてくれているのか、饒舌な野本くんが話を続ける。
「え、じゃあさっき話してたやつ。湊斗」
「えっ、何」
「何って……想の話だよ。何してるか知りたいんだろ？」
「あぁ、うん」
まさかの人物の名前が出てきた。鼓動が早くなる。咄嗟に、テーブルの上に出していたスマートフォンをズボンのポケットに仕舞い込んだ。戸川くんのまっすぐな視線が、私の視線と交わる。
「想と幼なじみだったよね。何か聞いてない？」
「……想って、佐倉想のこと？」
「うん」
「……ごめん、わかんないや。連絡先も消されちゃったみたい」
「そっか、ごめんね急に」
少し寂しげに微笑む戸川くん。その表情がなんだか懐かしくて、高校の頃を思い出す。再会早々、ひとつ隠し事をしてしまったことに罪悪感を覚えた。一方で野本くんたちは、想の話を切り上げて他愛もない会話を繰り広げていた。
「戸川くん、」
「ん？」
「元気だった？」
私の質問に、少し驚く戸川くん。そして、困惑しながらも昔と同じ柔らかな表情で頷いた。
「元気。すっごく元気だったよ」
「そっか、よかった」
「藤井は？元気だった？」
「ふふっ。うん……私もそれなりに」
「それなりにって」
８年越しに、またこうやって話せるとは思わなかった。もうこの先、決して会うことはないだろうと思って生きてきた。
「……紬は？青羽紬。今でも連絡とってるの？」
「あぁーー連絡……うん。取ってるよ、毎日」
「毎日？えっ、」
「……実は今、付き合ってるんだ」
恥ずかしげに、少し照れながらも戸川くんはそう言った。ふんわりと終わった片想いが、８年もの時を経て幕を下ろした。
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作者名：澪 x他1人 | 作成日時：2022年12月19日 20時
