#43 ページ44
『…テヒョンさん』
「……二人とも折角なら撮影してもいいかな?まだ時間はあるし、俺の偏見に付き合ってよ」
綺麗につくりあげられた作り物のような彼に出会った途端、また感じたあの匂い。あの時のトラウマが綺麗に上書きされていくような彼の姿に、私はまた胸が高鳴った。
それでも仕事なんだ、しっかりしないと。顔見知りだと監督に説明していたテヒョンさんの姿を後ろから眺めて、それなら少し大胆な撮影にしてみようかって勝手に話は進んでいき。
あ、また。胸がドキドキする。彼に肩を抱かれただけなのに仕草や行動に動揺して、表情管理ができないまま。あっという間に終わった。
「…お疲れ様でした」
『お疲れ様です…』
「久しぶりですね、元気そうでよかった」
『はい、テヒョンさんも』
ぎこちない会話内容は周りの雑音にかき消されて、
上手く着飾った容姿に見合わないその笑顔を直視できないまま。挨拶をして後を去る。
メイクルームでようやく緊張の糸が解けた暁には目を合わせられなかった後悔がやってきた。
「…(人1)ちょっと」
『?どうしたの』
「第三会議室に来て、」
『…うん』
負の連鎖とはこのことか。不意にマネージャーの耳打ちに一人青ざめる私。さっきから表情が硬いマネージャーだ、まさかが起きてしまったのかもしれない。
モデルの契約取り消しです、と言われたら。確実にメンタルブレイクする。
それから何故か時間を急かされて、緊張感を身に包んだまま第三会議室へ。ただちょうどそこに先客が居て、しかもバツの悪い、一瞬私服だから分からなかったけどキムテヒョンだ。
彼もまた呼び出されているのか。第三会議室の扉にもたれたまま腕を組み顔を伏せて。なんとも言えない空気になる。
『…あの』
「……」
『あの!』
「……」
わりと勇気を振り絞ったのに。反応してくれないのはわざと?一瞬考えて、彼の耳にイヤホンが見えた。
『テヒョンさん!』
「わ!!びっくりした!ごめん気づかなかった。」
『いいえ、あの何故ここに?』
「僕が呼んだ。さ、中で話しましょう」
まさか、____。私達二人?
ふっと笑ったテヒョンさんの口元が一瞬、嫌な妄想を掻き立てた。
649人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「BTS」関連の作品
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:chay | 作成日時:2021年11月25日 5時