Pseudo romance (ページ33)

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｢！、え｣

｢何何！！｣

｢停電！！｣

｢フロントに電話！！｣

一瞬、瞳を瞑ったその瞬間。薄ら開けた瞳は暗闇に包まれていた。それでも動きたくないほどの怠さで、そっと耳だけ澄ましてみれば、慌ただしい足音。わざとらしい悲鳴に笑い声が聞こえる。

私は身動きできず、その声も次第に遠くなって。

『……っん』

心地よい夢を見ていた。それがとてもリアルな夢で。

大きな手が優しく髪を撫でて、引き寄せられた体。そのままゆっくりと触れた唇は、温かくて柔らかくて。

ゴクッ。

欲しかった水さえも喉を通っていく心地良さを感じた。

『……あ？あれ＿＿＿＿』

あの夢は現実？体制も、湿った唇も、怖いぐらい感覚を残したまま。そっと目を開けてみる。いつの間にか物音一つ消えて。間接照明に目を懲らす。

時間感覚が分からない。私はどれほど眠りについていたんだろう。しかし気持ち楽になった体は、ゆっくりと立ち上がった。

僅かな記憶を頼りに、周りを見渡しながら別室へ向かうのだが人の気配がなく停電の影響か、音響のない空間へ変わり果てている。

『……え、』

誰も居ないと思っていた私は、まだ夢の中だと思っていたようだ。いいや、夢であってほしいと思っていたのかもしれない。

ふとカーテンの隙間から漏れた月明かりが一直線に照らしたもの。

それを捉えた瞬間、息を止める。何もかも崩れていきそうになりがら次第に全体を見据えていくと。

脱ぎ捨てられた衣服。重なった男女の姿。吐息混じりの声、卑猥な音。それは1箇所だけじゃなくフロアに何箇所か散らばっているようだった。

(バンタンには気をつけなさい！！)

眠たい頭が一気に冴えてマネージャーの姿がはっきりと脳裏に浮かんだが。体が発したSOSに震えて、頭はパニック。咄嗟に携帯を取ろうとしたが。ロックボタンさえも押せないほど。

そして、後悔に押し潰されそうだった。

耳を塞ぎながら。周りの目を気にせず行われている、この事実がこの飲み会の意味であること。厳重なセキュリティは、この事態を隠蔽するためなんだと芸能界の怖さを思い知らされるばかりで。

私が逃げたら。言葉の如く事務所共々潰されるかもしれない。でも、自業自得。それしか出てこなかった。