白昼夢は儚く響く ページ36
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阿部は話終えると一度ため息をつき、下を向いた。目線も合わせず、ただ沈黙の時間が流れる。
ab「…ラウールはさ、この話聞いてどう思った？」
ru「え、…どうって。」
ab「俺が何で死んだのか、いまいちわかってないでしょ。」
未だに目線をそらしながらゆっくりと言葉を放った。
ab「別に俺の人生は悲劇じゃないの。佐久間とか、康二とか、ふっかとか、目黒と比べたら普通な暮らしをしてた。…俺が死を選んだ理由は漠然としたものだった。」
阿部は少しため息をつくと、ようやくラウールに向き合う。
ab「…ただ不安を感じて、プラスに考えられなくなる。最期の方はもう、しっかりと物事を考えることが出来なくなってた。ぐしゃぐしゃの言葉しか浮かばなくて。」
ru「…そうなんだ。」
ab「俺はね、死にたくなったときの苦しさはわかってるつもり。人一倍。」
ru「…うん。」
ab「とにかく苦しいんだよ。心臓が捻り潰されてる気分。…それでもまだ、ラウールは自分のこと知りたい？」
そんな問いかけに、ラウールは下を向いたまま何も言わなかった。ただ、ここで立ち止まったらまた自分のことを知る機会を失ってしまう。もう逃げたくはないのだ。
ru「ごめん阿部ちゃん。やっぱり知りたいんだ。阿部ちゃんが俺のことを思って言ってくれるのはわかってる。それでも、知りたい。」
ab「…そっか。ラウールならそう言うと思ってたよ。…うん、わかった。これ以上俺に止める権利は無いしね。」
阿部はやっとラウールと目線を合わせ、一度自分に言い聞かせるように頷いた。
そして、パソコンを開く。
そこに、周りで静かに話を聞いていた皆がやってきた。何も言わずにラウールのそばに来ると、佐久間はラウールを抱き締めた。
sk「…お前は偉いな。」
ru「…そうだよ、俺偉いでしょ？」
sk「おお、自分で言うのね？」
kj「…でも大丈夫やでラウール。辛くてもな、周りには俺達が居るから。」
ru「…大丈夫、知ってるよ。」
ab「あったよ。」
そう言って阿部はパソコンの向きをラウールの方へと向ける。白い画面には一つの記事。杉並区、一家心中という文字が浮かんでいた。
一家心中。杉並区。全員死亡。神善茲創会。洗脳。
記憶の欠片が一つ一つ浮かんでくる。
記憶が浮かんでくるたびに、ラウールは思い出すことを選択したことに後悔した。
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作成日時：2020年8月11日 17時
