69 ページ20
side 羽生結弦
「なんか。よくわかんないけど、大丈夫？」
ベンチに座っている猫に自動販売機で買ってきたコーヒーを差し出す。
大泣きしていた猫をとりあえず、会場だったホテルの庭へ連れ出した。
「着とけよ」
猫に来ていた上着を差し出す。
かろうじて、長袖ではあるがパーティー用のワンピースではあまりも寒いだろう。
「いいです」
「見てるこっちが寒そうなんだよ」
猫はそれ以上は何も言わず俺の上着を肩にかけた。
なんで、泣いていたかなんて大体想像はつく。
昌磨だ。
「で？昌磨に泣かされたの？」
猫は図星なのか昌磨という言葉に反応しこちらを見つめた。泣き腫らした目が痛々しかった。
「別に昌磨のせいじゃない…です」
まだ、情緒不安定なのか昌磨という言葉を口にしたとたんに猫の目は潤んだ。
「いや、どう考えてもそうだろ？猫がそんなに泣くのは昌磨のことって相場は決まってんだよ」
なんか、恨みがましいな。
自分で言ってても卑屈だなと思う。
猫はやはり図星なようで口をつぐんでしまった。
「やっぱりな」
俺はようやく、猫の隣に腰をおろした。
「あのさ、約束覚えてる？」
猫は覚えてないようで弱々しく首をかしげた。
「アイスショーのときさ、昌磨に葉月は渡さないからって」
あの言葉は葉月思って出た言葉じゃない。
猫の気持ちを考えるとどうしてもやるせなくて出た言葉だ。
「悪いけど、守れない」
でもきっとそれは、猫のためはおろか、俺にも昌磨にもそして葉月のためにもならない。
誰のためにもならない。
「別にもういいんですよ。そういうのは」
猫は力なく首をふった。
「すねんなよ！誓約書書かせなかった猫が悪いん…」
「振られたんです」
そんな言葉で遮られて、俺は一切の動きを止めた。
ふられた。
頭の中でその言葉がこだまする。
「だから、もうどうでもいいんです」
猫はベンチからゆっくりと立ち上がった。
「コーヒーありがとうございます」
貸していた上着を差し出された。
「帰ります」
きっと猫はホテルで一人で泣くんだ。
そんなことはわかってる。
でも、ここで泣けばいいとか、俺の前で泣けとかそういう立場に俺はない。
なんだか、不甲斐なくて悔しい。
知らず知らずのうちに両手は爪が食い込むほど握りこんでいた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 100人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
らっき(プロフ) - 完結されてからかなり経ってしまっていますが、読ませていただいてすごく好きな作品になりました。書いて下さってありがとうございます！それだけ伝えたくてコメントしました(*^^*)見てくださるといいなぁ、なんて思ってます！ (2021年12月7日 22時) (
レス) id: 4da1a124c4 (このIDを非表示/違反報告)
めぐみ(プロフ) - 大変お久しぶりです。最後まで読ませて頂きました。ぜひとも、時間があるときで構いません。名前を自分の名前に変換したものを読みたいので、よろしくお願いします。 (2018年9月2日 8時) (レス) id: 058ee396c0 (このIDを非表示/違反報告)
納子(プロフ) - yuccoちゃんさん» ほんとうに読んでいただきありがとうございました！ (2018年4月9日 9時) (レス) id: 21906f0f83 (このIDを非表示/違反報告)
yuccoちゃん(プロフ) - こんばんは！ゆづのドSなセリフにトキメキました！言われたい！サイコーの終わりでした！番外編で続きも読みたいです！ (2018年4月8日 1時) (レス) id: 72d5e5baf7 (このIDを非表示/違反報告)
納子(プロフ) - 鹿さん» いつも丁寧なコメントをありがとうございます。読んでいただけてほんとうに嬉しいです (2018年3月29日 20時) (レス) id: 21906f0f83 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：納子 | 作成日時：2017年9月7日 21時
