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あの後、素早くその場を去ろうとしたロボロは、焦りのあまり、思い切り転んだ。

ヒラヒラと箱の中身の書類は宙を漂い、四方八方に飛んでいった。
2人して顔を白くし慌てて書類を捕まえるAとロボロ。そんなこんなで、事が収まる頃には。

「書類踏んずけて滑るとか、アンタほんま鈍臭いなあ。」

「そう言って転けたのはどこの誰でしたっけ?」

「お、お前なぁ…!」

冗談が言える程まで、打ち解けていた。

「やけど、アンタ幹部やろ?なんで軍章つけとらんのや?」

「軍章?」

聞き返すAに、これくらいの、と指で大きさを伝えるロボロ。
そういえば、初任務のあと、そんな物が渡されたような…
ってきり、褒美の装飾品だと思って部屋にしまっていた。
その事をロボロに伝えたA。

「はぁ?何やっとん!?そんな大事なもん部屋に置いてきたらあかんやろ!」

急いで取りに帰れと急かすロボロ。
ありえない。と言う顔を向ける。

「顔をまだ覚えられとらんのに、なんも付けんで歩いてたら絡まれるで。」

成程、先程から視線を感じるのはそう言う事だったのか。納得するA。

人間と言うだけで弱いのに、自らを守る盾が無いとなるともうどうしようもない。
しかも、自らその盾を手放すとは何ともおかしな話だ。

「不安なら、俺がまぁ、ついて行っても…」

「ありがとうございます、今すぐとってきます。それでは...!」

チラチラと視線を向けるロボロの事は完全に眼中になく、廊下を驚異の速さでかけていくA。

伸ばしかけた手は寂しそうに下ろされた。

「あっ…さいなら…」


就任と共に割り当てられた豪華な部屋で、Aは慌ただしく動いていた。
ステンドグラスに屈折した光が部屋に差し込み、厳格な雰囲気が漂っている。

煌びやかな装飾品が並んでいる壁際で、ロココ調のチェストの引き出しを端から端までくまなく探すA。

コンと硬く軽い音をたてた箱を取り出す。ザラりとした革のような加工が施されている箱を開ける。クッションの間に挟まっているそれは、鈍い光を放っていた。

「あ、あった…!」

スーツの襟をついと引き寄せ、ラペルホールを覗き込む。
小さな金属の円盤を持ち上げ、留め具を外す。ピンズを布地に押し当てた。ぱちり、少し高めの音が小さくなった。

軽く摘んで見ると金属の冷たさが指先に染み込んだ。

指の第1関節にも満たないそれが、何故か異様に重く感じられた。

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作者名:myself | 作成日時:2021年8月10日 22時

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