600万の酔いどれ (ページ10)

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気まぐれな救世主は保証人を知らぬ　8 ページ10

「あ、こうえん。コーヒー飲みたい。」
「え？」
「飲む！ちょっと行ってくっから！！」

私の腕から離れちょこちょこ走り出す彼。
案の定千鳥足なので右へ左へうろちょろうろちょろする。
見てられないくらいの酔っ払いだ。
今にも転びそうな体を支えるために、また歩き出す。

「1人じゃ歩けないでしょ、もう…」
「…そうだ。そうなんだよね。」
「ん？」
「俺、1人じゃ歩けないの。」

久しくこっちを見たと思えばさっきの馬鹿でかい笑い声とは真逆の、こっちが泣いてしまいそうな顔をしていて。
生唾が喉を通る。冷や汗が肌を伝う感覚と似た何かが通っていく。
悲しみの中に埋まっていく。

さっきからずっと話していた仲間のこと。皆彼を支えている。
楽しかったけど怒られたこと、辛くて悲しかったけど皆には笑ってもらえたこと、何もかも。彼の話には、必ず第三者がいる。
それは、彼の世界は彼だけのものじゃないってこと。

ベンチにゆったりと腰を降ろした彼はまるで素面みたいに静かに喋り出す。

「俺、いっぱい仲間いるからさ。」

数少ない睫毛がゆらゆら揺れる。

「多分、1人じゃだめんなっちゃう。」

瞳が細められる。

「おまけに皆優しいからさ。」

ぽつぽつと吐き出していくあたたかな言葉。

「いやなんだよね。だから。」
「…買ってきますよ、コーヒー。」
「え？いいん！？」
「はい。」
「しゃっきんあんのにぃ！？」
「コーヒーくらい買えますから！！」
「ほんとにぃぃぃぃ？？」
「ほんと！！」

…待て。待て待て。何ムキになってんだ。私らしくない。
そうだよ。私らしくない。
こんな酔っ払いに絡まれて楽しそうに笑うのも、それに気を良くしてしまったことも、支えて歩いてんのにこんなに進まないのも、彼が普段どんな姿なのか想像してしまうのも。
おかしいのは私の方だ。
私の方がよっぽど酔っ払ってるよ。