紫爛花

赤色の救世主 ページ19

「なんか凄い音聞こえたけど…」

「A！？」


1階で遊んでいたはずのまるが険しい顔で駆け寄ってきた。


「ほんとに、見た目より全然痛くない」

「それでも見とる俺は痛々しいっちゃん」

「冷やしに行こ、歩けると？」

「足は何も怪我してないって(笑)｣

「A、ごめん…」


悲しそうな顔をしてる脇と目が合った。


「大体、こんなとこに木があるけん悪いっちゃん！
隣も工事の音凄いし、ここも工事途中やったんかな？」


社長の物件選びのセンスが悪いとか、好きなこと言って
元気づけてるはずなのに、どんどん顔は暗くなっていく。


「だから、脇…。大丈夫やけん。そんな顔せんで？」

「A、何しようと？」


弟のさっきの大きな声に心配したのか、
今1番会いたくない人の声がした。

脇、まる、私の異様な雰囲気に怪訝な顔で近づくと
まるが包んでくれてたタオルをそっと取った。
彫りの深い顔が、より一層険しくなる。


「何が起きたと？」

「ふぉい、A怪我人やけん」

「お前がやったんか？」

「…。」


目が合うと、ふぉいまで苦しそうな顔をしていた。
大切な人達の悲しい顔は、やっぱり好きじゃない。
さっきの脇のキスを思い出して、目を逸らしてしまう。


「まる、A連れてって。病院行って。」

「待って、まだ…」

「A、行こ。」


ああもう。まるまで悲しそうな顔しないでよ。


「ウン。ホネ、イタメテルネー」

「え？！」


今世紀で、自分が一番驚いた。
日本語が片言だけど喋れるインドネシアのお医者さん。

木の皮で深く切れた傷と、打撲による衝撃で痛めてしまった。
右腕という利き腕が使いづらくなるため
安静にしておくのが一番だと、伝えられた。


「Aサン、ニホン、デミテモラウ？」


社長はバカンスだー！って言ってたけど
このインドネシア旅がただの旅行ではないことに
メンバー達は気がついていた。
まだ世間には公表してない″世界一になる″という社長の夢。

今回の旅で、社長やメンバーは海外がどんな情勢で、
今後の戦略を立てるために学びに来ている。

幸い手の指は動く。


「帰りません。」

「A、ほんとに大丈夫？」

「うん。私たちは社長についてきとるけんね。」


まるはずっと心配そうな顔で隣にいてくれてたけど
そう言うと頼もしい笑顔で笑ってくれた。


「それにしても、半日で治療終わるインドネシアの医者は大丈夫とかいな？」


入院レベルでは無いものの
病院での手続きは全部まるがやってくれていた。


「まる、本当にありがとう。」

「俺も、支えるから。」


あの二人を残してしまった。
心配事はまだ1つ残っている。

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