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「おかえり。寒かったでしょ？」
「ただいま。寒かった、疲れた。あ、雅紀、上着ありがとう。」
はいよ、と雅紀が上着を受け取る。
「和、ひとりで頑張ってたよ〜！
看護師さん騙すの。」
「そりゃそうですよ。相葉さんに口出させるわけにはいきませんもん！」
「口出さなくたってボロが出るもんな。」
こいつらとふざけあってる時間が楽しい。
あぁ…でも、これもきっと最後だ。
「…おかえり。」
白衣を着た智くんが、仏頂面で病室に入ってきた。
「おじさんも、協力してくんないですよ。」
「馬鹿！俺、医者だぜ？するわけないじゃん」
喋りながらも、ちゃちゃと俺の体を診察して機械につなげてく。その顔がどんどん険しくなる。
さっきは、ありがとう。
と口にしそうになって、必死に堪えた。
ここで言ってしまっては意味がないじゃないか
代わりに、
「今まで生かしてくれて、ありがとう。」
今までのお礼を言った。
「………まだ、死なないよ。大丈夫。」
俺はもう、少し前から酸素マスクも付けてない。いらないと思ったから。
智くんが穏やかな顔で、頭を撫でてくれる。うん。
俺はこの顔の智くんが、好きだよ。
なのに、また顔を険しくして、白衣を翻して足早に病室を出ていってしまった。
「ありがとね、和。雅紀。」
和は泣きそうな顔をしていた。
「雅紀は、なんでもう泣いてんの？」
「なん…で翔ちゃんは、笑ってられるの？」
視界がぼやぼやする。泣いてるわけじゃない。焦点が合わないんだ。揺れる、世界が。
「……俺は、諦めて、たから…生きること、諦め……たから、笑っ、てられん、の。」
「翔ちゃん、もう喋んないで。……目、閉じていいよ。楽に、して、いいよ…」
和のまぶたを抑える手が温かくて、目を閉じた
和、も泣いてんのかよ…
その言葉を声に乗せることは出来なかった。
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作者名：鈴 | 作成日時：2016年11月26日 18時
