月夜 百四十七夜目 ページ26
「……その問いには、答えられ、ません」
【ん？でも、お前そのプロジェクトに関わってたんだろ？それにお前がハノイの騎士なんだったら、何やってたとかわかるもんじゃないのか？】
「……分かりませんよ。殆ど、何も残っていないので」
「何も、残っていない？」
「……ええ、そうです。私には何も分からない……何も残っていない……！私はあの研究所で何をして居たのか、全く思い出せないんです！」
そんなに簡単に、思い出せなんて言わないでください、といきなり強い口調になった彼女のその瞳は先程までぽわぽわとAiとPlaymakerにサインをねだっていた彼女とは思えないほど、怯えきっていて、
「……皆、喋れっていうんです。お前しかいないからって、そるの人達は、何をやっていたのか話せって、いうんです。でも、でも、でもでもでも！何も私の頭の中には残っていない！もう、嫌なんです……！」
【……り、リデル？】
「……あ、あ、ごめんなさい、叫んじゃって、すみません、何も語れなくてすみません、なにもおぼえてなくてすみません、みつきちゃんたちをうらぎってすみません、わたしだけにげてすみません」
自分の大声とAiの声に意識を取り戻し、その代わりとばかりに錯乱し始めたリデルの手が頭を抱え、ぐしゃり、と長い銀糸が乱れる。そしてその指は頰に爪を立て、がりがり、と引っ掻き出した
ごめんなさい、ごめんなさいと恐怖に染まったな瞳で呟き続けるリデルの姿は、いつぞやの自分にそっくりだ
「おい、リデル！」
「あ、あ、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……！」
……ダメだ。完全にトラウマスイッチがオンになってしまっている
この状態になると、その人からは周りのことが見えなく、聞こえなくなる。自分を襲う圧倒的な恐怖に身が竦み上がり、その恐怖と自分の感情以外の情報全てをシャットダウンする。
彼女の今の状態からいって、これ以上の情報は望めないだろう
(……だが、未月達を裏切った、か。“Pandoraプロジェクト”……まだまだ何かありそうだな)
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作者名：瑠伊亞 | 作成日時：2019年5月18日 21時
