月夜 百五十四夜目 ページ37
「歩くのは無理そうね……今車椅子を用意するから、それに座って頂戴」
叫んだことで更にガンガンと痛みだした頭を抑えながら、溜め息を吐いてのそのそと布団から抜け出す。滝さんは車椅子をいそいそと何処からか取りだし、私のすぐ近くに置いてくれた
「ちっきしょう……なんで、なんで私がこんな目に遭わなきゃなんないのよ……」
車椅子を支えにして立ち上がり、プルプルと生まれたての小鹿並みに震える姿は客観的に見れば滑稽だろう。それが何人ものハッカー達を倒して回ってきた『New Moon』の正体だと分かっていれば尚更だ
(癪だけれども)滝さんの肩も借りて何とかして車椅子に座り、腕に刺さっていた点滴のスタンドがベッド脇から車椅子の後方に移動するのをボーッと眺める。何処からかふわりと、先程まではしていなかった筈の消毒液の臭いがした
(……なんだか、懐かしい気分)
「？どうかした？」
「……いーえ。別に何も」
「そう。それなら、医務室に案内するわ。了見様はどうなさいますか？」
「私は外させてもらう。男に肌を見られるのは流石に浅葱未月でも嫌だろう」
「おい流石に、ってなんだ。流石に、って」
だが了見は私からの問いかけには一切答えずに、入ってきた時と同じように一部開いた壁から部屋を出ていった。うわ無視かよ
「……じゃ、私達も移動しましょうか」
車椅子に座った以上、操縦主である滝さんからは逃げられない。私は頬杖をついて、はぁ……と溜め息を吐いた
「……えっと、身長は155cm。体重は……40kg？！ちょ、ちょっと、適正体重よりも10kg痩せてるじゃない！しかもたぶんこれ、筋肉が衰えているが故の痩せ方……あなた体壊すわよ！？」
「は、はぁ……？」
「……決めたわ。貴方の食事は栄養満点の美味しい食事だけにする！！そして必ず貴方を標準状態まで肥えさせる！！」
「は、はぁ……え？」
「この屋敷にいる限り、ホットドッグとサプリメントは禁止よ、分かった？」
「待って？？？？」
「そうと決まったら運動メニューも必要ね……了見様の筋トレ用マシン使えるかしら……？」
「だから待って？？？？？？？」
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作者名：瑠伊亞 | 作成日時：2019年5月18日 21時
