六十六、エラー ページ22
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……私とAが出会ったのは、いつだっただろうか、と。
太宰は彼女の家へと急ぎつつ、ふとそんなことを考えた。
それはあまりに幼い頃であまり覚えてはいないが、まだ当時の自分は、世界の残酷さと己の孤独さをよく認識していなかった。
……というより、ずっと彼女はそばに居た。漠然と生きることの虚しさを感じつつも、
Aのことを守り、慈しみ、愛し、そしてそばに居て、彼女を『幸せ』にする____それだけで、僅かに世界が彩りを持ったものだ。
……そして、その望みだけが、太宰とこの世とのよすがを保たせていた。
「……A、」
____七年前のあの日のことはよく覚えている。自分は彼女と同じ十三歳だった。
津島夫妻の正体には勘づいていた。父親の動きは常に監視していたし、母親が夫の行動に不審感を抱いていることも知っていた。
【匣】の長である彼と違って、曲がりなりにも弁護士である母親の方は、少なくとも娘を守ろうとする良心はあった。
だから、太宰も、少し自分が目を離した隙に、あんな事件が起こるとは思わなかった___要するに、彼もまだ未熟だった。見積もりが甘かったのだ。
……いや。Aの父親の行動が想定外なほどに異常だったのかもしれないが。
『A。君だけは、絶対に助けるから……たとえ、僕の“死の可能性”を無駄にしたとしても、
君の幸せだけは、守ってみせるよ』
一酸化炭素が充満する居間に入った時の光景は忘れられない。
部屋中に飛び散る血。撃たれて死んでいる津島夫妻。中毒で倒れている幼なじみ。
……そして、彼女が手にしている、灰色の拳銃。
太宰の頭脳は、何が起こったのか、一目で把握した。
恐らくは、母親が父親を止めようとしたのだろう。娘を実験の道具にするなと。そしてそれを撃った____父親が。
それを見て、恐らくは……、
Aが彼女自身の手で、父親を殺したのだ、と。
……把握して、それから彼が行ったのは迅速な証拠隠滅だ。
Aを生かすには急がなくてはならないが、当然『救う』ためには、Aが父親を殺したという事実を抹消する必要があった。
当時、特務課の息のかかった捜査官と取引を交わし、それから間もなくポートマフィアに入ることで、事件の情報を捏造した。
その結果、Aは“事実”と完璧である筈の自分の記憶との齟齬と、それからショックにより。
一時的な記憶喪失……【パンドラの匣】のエラーを起こしたのだ。
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さにー☆彡(プロフ) - りささん» 互いの『最優先』を尊重する、あるいはこの2作の内容全てといったところでしょうか…(文法に違和感を覚えるのはそういうものとして御海容下さいませ…) (2021年5月18日 11時) (レス) id: 6034bec340 (このIDを非表示/違反報告)
りさ - 最後のところの『それ』って何なんでしょうか? (2020年5月18日 16時) (レス) id: 486a37f744 (このIDを非表示/違反報告)
さにー☆彡(プロフ) - ゆきさん» ありがとうございます!!設定や中身まで楽しんで頂けたようで何よりです!! (2019年7月31日 18時) (レス) id: 6034bec340 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - 設定、話の内容、文才、全てが素晴らしくて、読んでいてとても楽しかったです。作品様すばらしいです…!!ありがとうございました。 (2019年7月31日 17時) (レス) id: e69c1b6ddb (このIDを非表示/違反報告)
さにー☆彡(プロフ) - ゆずみかんさん» ありがとうございます……!!主人公がやばくてすみません……!こいつ大丈夫かと何度も思われたことでしょう申し訳ない← こちらこそこの作品を最後まで読んでくださりありがとうございました!!コメントすごく嬉しかったです…! (2019年6月6日 8時) (レス) id: 6034bec340 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:sunny | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hovel/AKOwww1
作成日時:2018年9月7日 14時