六十四、『希望』 ページ20
太宰の双眸のその奥で、重い闇の帳が降りる。
……ただでさえ孤独な世界を、さらなる孤独なものにしない為に、長い間守ってきたもの。
太宰がまだ、自分が暗く悲しい世界で独りぼっちだと気づく前から、守ろうと決めていたもの。
それが津島A____幼い頃から一緒にいた、他の誰よりも愛しい幼なじみ。
彼女が信頼していた実の親が、人としての感情を持たない
彼が試しているのは娘であるAか、それとも『彼女を守る存在である太宰治』なのか____。
いずれにせよ。
彼のことは、気に食わない、では済まない。
「……乱歩さん、彼の頓智というのは、『崎見』という偽名のことでしょう?」
「その通り。ギリシャ神話において、パンドラという娘は『全ての贈り物を与えられた者』とされていて、エピメーテウスという神に送られている。
世界にまだ男しかいなかった頃、彼女を作ったのは鍛冶の神ヘファイストスだけど、
……それの元凶となったのは全能の神ゼウスの怒りを買った神、
____名に“先見の明を持つ”と言う意味を持ちプロメテウスだ」
つまり、ただ『さきみ』という読みを掛けただけだろう、と、乱歩は面倒くさげに眼鏡を指の腹で押し上げた。
「くだらなすぎて解説する気が起きなかったわけだけど、太宰も判ってるなら意味は無いな」
「下らない、ええ、本当にそうですね。Aは与えられたのではなく、奪われたんだ」
底冷えのする声で呟き、太宰は口角を上げた。
そして乱歩に、「ありがとうございます」と礼を云う。
「助かりました、乱歩さん」
「……僕としては面白かったからまあいいけど。太宰、これからお前、何をする気だ?
探偵社員として、相応しくない行動を取るのは許されない、それは判ってるのか?」
太宰は黙したまま答えない。ただそこにあるのは、微笑だけ。
乱歩はため息をつくと、眼鏡を外した。
「では、乱歩さん。これで失礼します」
「……仕事をしないと、また国木田に怒鳴られるんじゃないの」
呆れたような声に、また笑みを返す太宰。
彼の背中を見送ってから、乱歩は回転椅子を一周、くるりと回転させた。
「開けてはいけないパンドラの匣には……最後、『希望』が残ったわけだけど」
彼奴、それ、態と考えてないよね。
乱歩は呟くと、また軽くため息をつく。
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さにー☆彡(プロフ) - りささん» 互いの『最優先』を尊重する、あるいはこの2作の内容全てといったところでしょうか…(文法に違和感を覚えるのはそういうものとして御海容下さいませ…) (2021年5月18日 11時) (レス) id: 6034bec340 (このIDを非表示/違反報告)
りさ - 最後のところの『それ』って何なんでしょうか? (2020年5月18日 16時) (レス) id: 486a37f744 (このIDを非表示/違反報告)
さにー☆彡(プロフ) - ゆきさん» ありがとうございます!!設定や中身まで楽しんで頂けたようで何よりです!! (2019年7月31日 18時) (レス) id: 6034bec340 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - 設定、話の内容、文才、全てが素晴らしくて、読んでいてとても楽しかったです。作品様すばらしいです…!!ありがとうございました。 (2019年7月31日 17時) (レス) id: e69c1b6ddb (このIDを非表示/違反報告)
さにー☆彡(プロフ) - ゆずみかんさん» ありがとうございます……!!主人公がやばくてすみません……!こいつ大丈夫かと何度も思われたことでしょう申し訳ない← こちらこそこの作品を最後まで読んでくださりありがとうございました!!コメントすごく嬉しかったです…! (2019年6月6日 8時) (レス) id: 6034bec340 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:sunny | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hovel/AKOwww1
作成日時:2018年9月7日 14時