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ティーカップの中の嵐 七 ページ9

わたしは顎に手を当てて、しばらく考えた。


そして微笑を浮かべる太宰幹部を見つめて言った。



「無理ですね」


「即答!」



ひどい、と抗議してくるけれど、彼の目は全然ひどいと思っているようには見えない。


空虚で、闇に満ちた瞳。その奥に見えるのは自信、だろうか。


自分がそう提案をするということは、もう決定事項となるのだと確信している眸だ。



「不可能とは言いません。ただ、太宰幹部の一存で決められることではないでしょう、ということです」



部下を異動させたい場合は、上司である幹部、それから首領(ボス)の2名の同意が必要だ。


それは彼も勿論判っているようで、口を挟んでは来ない。



「異動に構成員の希望など考慮されないですからね。それに別に俸給が下がらなければ、誰の部下であろうとわたしには大して関係しません」


「淡白だなあ。それに今、私はAさんの意志を聞いているのだよ。……中也の部下でいたいか、私の部下になりたいか」


「それはまあ、中原幹部ですね」


「……へえ?」



細められた太宰幹部の瞳に、闇色の光が宿ったのが見えて、一瞬怯みそうになった。


……けれどもまあ、それは当然だ。何せ中原幹部は部下には結構優しいし、太宰幹部とは今日初めて会ったばかりなのだから。



「……そう言われると、無理やりでも手元に置いておきたくなるね」


「はあ。では中原幹部と首領に打診なさっては如何です? わたしはご命令とあらば従いますから」


「ふぅん」



少しだけ不機嫌になった様子の太宰幹部は、頭の後ろで手を組むと、不意に思い出したように「じゃあ」と口を開いた。



「私と一緒に心中しない? 答えを聞いてなかったよね」


「何が如何してそうなったのか判りませんが……あなたが『わたしだから』誘ってくれたのなら、少しは考えていたかもしれませんね。


一人で死ぬのは寂しいですしね」



……すると笑顔のまま、太宰幹部が硬直した。


如何いう事、と硬質な声で問われたけれど、わたしは問いの意味がよく判らずに眉根を寄せる。



「あなたは、相手は誰だっていいんでしょう?


わたしは、何も求めていない人に何かを差し上げられるほど、器用な性質ではないんです」



太宰幹部は、表情を消すと何も言わなかった。


だからわたしは少しの違和感を覚えながらも、そのまま「失礼します」と退出した。

探すな、見つけろ 一→←ティーカップの中の嵐 六



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やっさん - さにー☆彡さん» 後書きの羊の宰相、リンク、スタートになってますけど笑。徳田さんの、転生前の本名は、謎のままでしたか... (2019年8月10日 9時) (レス) id: fd24bdc7a6 (このIDを非表示/違反報告)
さにー☆彡(プロフ) - くどはるさん» ありがとうございます……!!そう言って頂けてとても光栄です!太宰さんは妖艶でないとだめですよね笑ちゃんと書けていたでしょうか笑…続きではありませんが、後書きにある作品がこれにリンクしたものとなっています。ご興味あればぜひどうぞ! (2019年7月23日 7時) (レス) id: 6034bec340 (このIDを非表示/違反報告)
くどはる - こんなに読み込んだ作品は初めてです…作者様の言葉の卓越さや文章の造りに心底惹かれました!!一つの小説として、何度でも読みたくなってしまいます!太宰さん最高に妖艶です。続きを期待してしまいますが、また新しい小説楽しみに待ってます!素敵なお噺ありがとう! (2019年7月23日 1時) (レス) id: 356a43a05c (このIDを非表示/違反報告)
さにー☆彡(プロフ) - 涼風梓さん» なかなかに長い話でしたが最後までお付き合いくださってありがとうございます!!楽しんでいただけてよかったです! (2019年6月6日 15時) (レス) id: 6034bec340 (このIDを非表示/違反報告)
涼風梓(プロフ) - 初コメ失礼します!とても面白かったです!面白くて一気見しちゃいましたw今更かも知れませんが完結おめでとうございます! (2019年6月6日 15時) (レス) id: b666f93d0b (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:さにー☆彡 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hovel/AKOwww1  
作成日時:2018年3月24日 21時

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