血と闇のカーテンコール 六 ページ29
【sideA】
……最近、太宰幹部が絡んでこなくなってきた。
わたしはこれから担当することになる捕虜の資料に目を通しながら、購った微糖の珈琲を飲み下す。
あの熱烈な心中の誘いから少し月日が経ったが、『全部あなたの勘違いですよ』発言が効いたのだろうか。素晴らしいことだ。
……とはいえ、『なってきた』だけなので、彼も偶にわたしの捕虜室にやって来ては嬉々としてお茶を汲み、
仕事を背後で見物したあと、部屋でわたしと少し駄弁っていくのだが。
わたしがカフェオレや紅茶ではなく、微糖の珈琲を飲めるようになったのも彼のおかげ(せい)だ。
(まあ何にせよ、平和ならいいことよね……)
あれから数回デェトに連れて行かれはしたが、あれほどグイグイ攻めてきたのはあれが最後だった。
大分絆されていっている自覚はあるが、自 殺にさえ誘われなければ、デェトは大して苦痛ではないので、大人しくついて行っている。
「やァ、Aさん」
「お早うございます、太宰幹部」
「まだ捕虜は来ていないようだね。よし、じゃあ私がまた珈琲を淹れてあげよう」
「わたしがやります……と云っても無駄なんですよね?」
「そうそう。上司の厚意はありがたく受け取っておくべきだよ」
無駄に揃っている、珈琲を淹れるための器具を器用に使っていく太宰幹部の手際はとてもいい。
捕虜室に『視察』に来るたびに使っているので、もう慣れたのだろう。
幹部としてどうか、そしてわたしの場合は部下としてどうなのかという問題は依然として残るけれども。
「今日はミルク没収ね」
「うぐう」
角砂糖は許してあげるからそのまま飲み給え、と笑う太宰幹部を恨めしく思いながら、前に置かれた珈琲を啜る。
わたしが淹れるより美味しいことが悔しい。
……そして、わたしがまた黙って資料に目を走らせようとした時、不意に太宰幹部が「ねえ」と声をかけてきた。
如何したんですか、と問うと、彼は寓意的な薄笑みを浮かべた。
「……君は、如何してポートマフィアに入ったんだい?
その『拷問』の仕方なら、警察の取調官の方が向いているのではないかと思うのだけど」
わたしはぴたりと資料をめくる手を止めた。
「……どういう意味でしょうか?」
「ただ気になっただけだよ。君の力は何も、裏社会で振るわれなければならないものではないと思ってね。
紅葉の姐さんに拾われたからここに居るのかい?」
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やっさん - さにー☆彡さん» 後書きの羊の宰相、リンク、スタートになってますけど笑。徳田さんの、転生前の本名は、謎のままでしたか... (2019年8月10日 9時) (レス) id: fd24bdc7a6 (このIDを非表示/違反報告)
さにー☆彡(プロフ) - くどはるさん» ありがとうございます……!!そう言って頂けてとても光栄です!太宰さんは妖艶でないとだめですよね笑ちゃんと書けていたでしょうか笑…続きではありませんが、後書きにある作品がこれにリンクしたものとなっています。ご興味あればぜひどうぞ! (2019年7月23日 7時) (レス) id: 6034bec340 (このIDを非表示/違反報告)
くどはる - こんなに読み込んだ作品は初めてです…作者様の言葉の卓越さや文章の造りに心底惹かれました!!一つの小説として、何度でも読みたくなってしまいます!太宰さん最高に妖艶です。続きを期待してしまいますが、また新しい小説楽しみに待ってます!素敵なお噺ありがとう! (2019年7月23日 1時) (レス) id: 356a43a05c (このIDを非表示/違反報告)
さにー☆彡(プロフ) - 涼風梓さん» なかなかに長い話でしたが最後までお付き合いくださってありがとうございます!!楽しんでいただけてよかったです! (2019年6月6日 15時) (レス) id: 6034bec340 (このIDを非表示/違反報告)
涼風梓(プロフ) - 初コメ失礼します!とても面白かったです!面白くて一気見しちゃいましたw今更かも知れませんが完結おめでとうございます! (2019年6月6日 15時) (レス) id: b666f93d0b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さにー☆彡 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hovel/AKOwww1
作成日時:2018年3月24日 21時