【文スト】だから、終止符を打つ【太宰治】

平行線の陰謀 一 ページ17

＿＿＿＿ねぇ、手を繋ごうよ。


そう悪戯っぽく笑いながら差し出された手が、誰かに重なって見えた気がした＿＿＿＿




「……あの、太宰幹部？」


「だからあ、今は『幹部』は禁止」


「……太宰さん」


「名前で呼んでもいいのだよ？ ……ってなんでそんな厭そうな顔するのさ」


「はあ。……理由がご所望で？」


「うーん……なんか地雷踏みそうだから辞めておこうかな」



賢明です、と頷いた。……呼びたくないからです、なんてわたしだって云いたくない。



……『デェト』と銘打たれた、二人でのお出掛け(わたしは午後の休み返上)だったが、矢張り太宰幹部の真意は判らないままだ。


手を繋ぎたがる意味とか。太宰幹部と呼ばれたくない意味とか。


ああ、でも上辺だけなら判る……要するに彼はら自分がわたしを好きなのだと勘違いしているのだ。



(早く気づいてくれないかな……)



彼はわたしを心中相手にしたいみたいだったけど、恋愛なんていう平和ボケした感情が本当に彼にあるとは思えないから、ただの気紛れだろう。


そもそもわたしは、彼が真に求める相手にはなれない。太宰幹部は『太宰幹部』だ。それ以外の呼称なんてなんだか変な感じがする。



「あ、これなんて如何だろう。きっとAさんに似合うと思うのだけど」


「わたし、もう二十歳(はたち)なんですよ。そんなはしゃいだ女子高生みたいな格好、出来ません」


「えぇー、可愛いのに」



わざとらしく膨れながら、手にした白のスカートを戻す太宰幹部。


購い物(ショッピング)に興じるマフィア。……浮かれてんじゃねーよゲージがあれば、即座に満タンになるような光景だ。



「デェトの必要性を感じませんね」


「言っただろう、私が君と出掛けたかったのだよ。


そして、その私の命令だから君は従った。必要性ならばそこにある。これ以上の理由が必要かな？」


「……仰る通りですけれど」



口がうまい。


上手く丸め込まれて黙り込むわたしを見て微笑むと、太宰幹部は次に行こうか、と再びわたしの手を取った。



(目はあんなに底冷えしそうなのに。手は暖かい)



それに、結構大きい。骨ばった手は、少年というより青年のものだ。


早く、と促されて、わたしは仕方なく握られた手を握り返した。

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