探すな、見つけろ 六 ページ15
だって、わたしに出来ることなど何も無い。
恐ろしく頭の切れるこの人に、わたしが与えられるものなど何一つ無いというのに、彼はいったいわたしに何を求めているんだろう?
触れられた箇所の暖かさに困惑していると、光の薄い黒檀の瞳がこちらを見た。
命じている側の筈なのに、彼の目の奥にあるのは懇願のように思える。まるで行き先を見失った子供だ。
「……不毛な期待ですよ。いくらわたしでも、あなたの心の奥底を浚うことなどできません」
「……何の話だい?」
判っているくせに、と眉根を寄せるとわたしはそっと彼の手を払った。
言葉の奥にある真意なんて無視して答えるのなら、こたらに選択権などない。
私は静かに目を伏せ、「ご命令とあらば」とだけ云った。
「それ。命じれば、君は私のものになってくれると解釈しても?」
「……至極
「ふふ。要らないね」
でも気に入らない、と今度は頬に手が伸びてくる。
驚いて肩を跳ねさせると、太宰幹部は心底愉しそうな笑みを浮かべた。
「だって、命令じゃなくて“お願い”だったら、君は私に靡いてくれないんでしょう?」
「まあ、心までは縛れませんからね」
「じゃあ如何すればいいのか、判るかい?」
それをわたしに聞くのか、と顔を歪めた。
何だか告白じみているけれど、彼が本心から求めているものが『わたし』でない以上、この会話は児戯でしかないのに。
柔らかく頬に触れる掌に小さく息をつくと、わたしは「手っ取り早い方法はあります」と呟いた。
それ以外には、太宰幹部が頑張ってわたしを誘惑する、という方法しかない。
「でも不可能です。こればかりはあなたでも」
「ふぅん、それは興味深い話だねえ。伺おうか」
「……では、わたしの『本当の名前』を当ててみてください」
断言出来る。“それ”を完璧に当てることができる“人間”は、この世界にはいない。
……いるとしたらそれは人間ではなく、化物か神だ。降参せざるを得ない。喜んで心を捧げよう。
(わたしも、不毛な期待をしているのかもしれない)
わたしが彼を理解してあげられないように。
彼も『わたし』を理解なんてできないのに。
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やっさん - さにー☆彡さん» 後書きの羊の宰相、リンク、スタートになってますけど笑。徳田さんの、転生前の本名は、謎のままでしたか... (2019年8月10日 9時) (レス) id: fd24bdc7a6 (このIDを非表示/違反報告)
さにー☆彡(プロフ) - くどはるさん» ありがとうございます……!!そう言って頂けてとても光栄です!太宰さんは妖艶でないとだめですよね笑ちゃんと書けていたでしょうか笑…続きではありませんが、後書きにある作品がこれにリンクしたものとなっています。ご興味あればぜひどうぞ! (2019年7月23日 7時) (レス) id: 6034bec340 (このIDを非表示/違反報告)
くどはる - こんなに読み込んだ作品は初めてです…作者様の言葉の卓越さや文章の造りに心底惹かれました!!一つの小説として、何度でも読みたくなってしまいます!太宰さん最高に妖艶です。続きを期待してしまいますが、また新しい小説楽しみに待ってます!素敵なお噺ありがとう! (2019年7月23日 1時) (レス) id: 356a43a05c (このIDを非表示/違反報告)
さにー☆彡(プロフ) - 涼風梓さん» なかなかに長い話でしたが最後までお付き合いくださってありがとうございます!!楽しんでいただけてよかったです! (2019年6月6日 15時) (レス) id: 6034bec340 (このIDを非表示/違反報告)
涼風梓(プロフ) - 初コメ失礼します!とても面白かったです!面白くて一気見しちゃいましたw今更かも知れませんが完結おめでとうございます! (2019年6月6日 15時) (レス) id: b666f93d0b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さにー☆彡 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hovel/AKOwww1
作成日時:2018年3月24日 21時