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「ごちそ…」
ぽわぽわぽわ、と頭に浮かぶのは、
にーちゃが作る暖かいごはん。
「にーちゃ、にいに…」
「…」
「にいに、にーちゃ、わたしきらい?」
家出したことを思い返し、似た容姿の二人を思い浮かべる。
_勝手に家を出て、泣くんじゃない。
_今日は、バツとしてお魚だけです。
ふたりの怒った顔を想像して、涙がこみあがる。
「きらっちゃ…、や」
「人間の子供というものは」
「ぎらっぢゃ、やあああ!!!」
「汚らわしい」
泣き続けるA。
涙と鼻水が出てやまない。
「子どもを泣かせるのは良くないのう」
「…、朱紗丸」
「ほれみろ。矢琶羽なんぞ、怖くないぞ」
女は男の耳を引っ張り耳打ちをした。
Aは男女に目を向け、彼女の持つ鞠に興味津々になった。
「…まり、だぁ。はじめてみた」
無邪気な笑みを浮かべ、朱紗丸と呼ばれた彼女は、持っていた鞠を高く上へ投げた。
無意識にその鞠の真下へAは走り、受け止めた。
怪我した膝の痛みなど気にせず。
「わ、わわっ!とれた、とれたよ!!」
「さすがじゃのお!」
「つぎ、わたしがなげる!」
Aが精一杯、上へ鞠を投げるも、すぐに地へ落ちた。
「あ」
「あ」
「しょうがない。手伝ってやろうぞ」
「ひゃああ、まりがいきてる!」
鞠は矢印と共に、そのまま空高く上へあがった。
「朱紗丸!落とすぞ」
「まて、矢琶羽!」
朱紗丸は、あわあわと動き、何とか鞠を手に取った。
Aはそんな仲の良い二人をみて、自然に笑ってしまう。
「すさまる、やはばば」
「おい」
「むきになるな、子どもじゃぞ。やはばばば」
「おい」
「ばばば〜」
「…勝手にしろ」
そのあとも、ずっと夜が明けるまで、
Aはふたりと遊んでもらった。
「すき、きらい、すき!」
「おお、見事じゃ。大好きなのじゃ」
「すき〜」
花占いをしたり、
「ほれ、たかいたかい」
「たかーいたかーい!」
高い高いをしてもらったり、
とにかく充実した、夜遊び。
しばらくして、二人は言った。
「今日のことは内緒じゃぞ」
そして彼らは、
まるで幻だったように、
姿を消した。
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_
「…い」
「む、むう」
「おい、しっかりしろ!」
「…てんげん?」
脱走しやがって、と頬をつねられるA。
…夢?
*
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雪 - 続き楽しみにしてます(●´▽`●) (2021年10月1日 8時) (レス) id: ed2686deb5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:灯り | 作成日時:2021年6月6日 19時