参拾 ページ31
俺は誰にも気付かれないように治療部屋を後にする。
相変わらずたくさんの【人間】の匂いがする。
……………… こんな匂いの中で人を喰わない禰豆子は、本当に大した子だ。
俺は、虚無が無ければとっくに理性を失ってその辺の奴らに頚を切られてる。
そうなりたくなくて、運命を呪って、【死にたい】と願って、【生きろ】と願われた俺が【熾勇】に与えた力。
鬼でありながら、人間として生きる権利を得た。
だが、本質は鬼だ。特に稀血の人間の匂いは本能を揺さぶられる。
例え、虚無を発動していても、だ。
俺の血鬼術は、まだ【未完成】なんだ。
ある程度の能力に目覚めた時点で、俺はそれ以上に喰らうことを辞めたから。
だから、血鬼術が完全覚醒する前に止まってしまった。
………… あー、らしくなく色々考えて頭が疲れた。
取り敢えず、誰に見つかることも無く冨岡邸へと戻ることが出来た。
熾勇の部屋に戻って、鍵のかかった引き出しの中を確認する。
………… やっぱり、個数が減ってる。
そろそろ数を増やしてやらないといかんな。
友達……………… では無いが、同年代辺りの知り合いが出来たんだ。
人間を毛嫌いする割には人が良いから、きっと重傷者を見過ごせないんだろう。
俺は懐から小瓶を幾つか取り出し、その中に血を流し込む。
どんな深手を負っても、瞬時に治す俺の血鬼術。
例えそれが、【生命活動を停止】していたとしても、蘇らせる出来る。
但し、停止してから一分以内という期限付だがな。
だから、死んで欲しくない人には俺の血を含ませた布を忍ばせた赤い御守りを渡す。
その御守りを頼りに、俺は何処へでも霧散して飛んで行けるから。
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作者名:アルビリオン | 作成日時:2020年4月17日 10時