木手くん行かないで ページ19
遠距離で過ごしていた学生時代に比べればかなり近い距離感になったと思う。最初こそは本当に嬉しかったのだが、慣れとは本当に恐ろしい
「ねえ、やっぱり泊まっていかない?」
「無茶は言うものじゃないですよ」
改札前で永四郎を引き止める私と、少し迷惑そうな彼。最終電車まで残り五分だ
週に一回のデートは永四郎がギリギリまで一緒に過ごしてくれて、こうして最後まで私が別れを惜しむのが恒例となった
昔は三ヶ月に一回程しか会えなくて、それに比べればいつでも会えるようになったというのに、私と来たら本当に欲が出て駄目だ
「明日1限だっけ……」
「ええ、このまま泊まっても良いのですが、そうしたらただ寝るだけとはいかないですからね」
私が永四郎に付いて行くこともできるが、運悪く明日はレポート提出日で今夜は徹夜で作業をしなければならない。取りに戻る時間もない
「寂しい」
「……その目やめなさいよ」
「……」
「こら」
片手で両目を塞がれて、そのまま抱きしめられた。鼻腔を擽る永四郎の匂いはさらに恋しさを増幅させて、正直逆効果だ
「早く一緒に住みたいなあ」
「時期を待ちなさい」
「待てないよー」
「さ、もう電車が来る。離れますよ」
あっという間に時が来た。このまま終電逃してくれないかな、なんて思っていたが永四郎はきっちりと時間を確認していたらしい。
几帳面な永四郎が、今だけは憎い。
「って、後1分じゃん。大丈夫なの?」
「ええ、ここの駅は小さい。そして私は移動が早いことを忘れましたか」
「ああ……なんとか法」
実際そういう原理じゃないことは知っているが、そうやって理由を作ってギリギリまで傍にいてくれることは嬉しい。あまり困らせるわけにはいかないので素直に離れれば頭を優しく撫でられた
「好きですよ」
「……私も」
捨て台詞が卑怯で狡くてやっぱり愛しい。永四郎の背中に手を振ってしばらく後ろ姿を眺めた。
あの後駅の中に入ったらまた振り返って、いつまでも手を振っている私に早く行きなさいよと笑いかけてくれるんだ。
永四郎は、本当に優しい。
上から電車が到着した音が聞こえる。
永四郎は急いでICカードを改札にタッチした
《ピンポーン。残高不足です。チャージしてください》
「……」
「……」
振り返った永四郎の顔はこの先ずっと忘れないだろう。
木手くん行かないで
「……すみません、今日。やはり泊めて貰えますか」
「……喜んで」
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光華(プロフ) - 逆からのやつ感動です!!柳君だからこそできることかな?神ですね! (2021年3月11日 21時) (レス) id: a571740452 (このIDを非表示/違反報告)
Haruka Ö(プロフ) - 逆から読むのは凄すぎました!!! (2020年1月27日 23時) (レス) id: 0d992502c1 (このIDを非表示/違反報告)
はる - 逆から読むのがわからないです…。理解力なくてすみません!!気になるので誰か教えてください! (2020年1月7日 13時) (レス) id: 2a82e997d1 (このIDを非表示/違反報告)
佐和(プロフ) - はじめまして。ろちこさんの作品にはまってます。がっくんのプロポーズ、笑いました。からあげwww逆ハ話も好きですが、誰か個人落ちの話をもっと読んでみたいです。更新頑張ってくださいm(._.)m (2019年8月18日 0時) (レス) id: 892b8d0726 (このIDを非表示/違反報告)
くろかは(プロフ) - ゼクシィじゃねーのが面白すぎたので日常会話で積極的に使っていこうと思います(^ω^) (2019年7月10日 19時) (レス) id: e34a9a5e9f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ろちこ | 作成日時:2018年4月17日 2時