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場違いだと言える程、明るい声がその場に響き渡る。ゾム、と名乗ったその男の後ろではナニカの唸り声は未だに鳴り止まず、ミシミシと蜘蛛の糸から抜けようと必死にもがいていた。
「ルイ、です」
「えっ、マジで自己紹介する流れなんこれ。後ろにあんなんおるのにすんの？」
「⋯⋯いや、だって、」
名乗られたら返さなきゃ、とバカ真面目なことを言い出すルイに鬱は はァー？ と言いつつも深い溜め息をついた。それに対しゾムはにこにこと笑って「そおか！ ルイな！ で、お前は？」と鬱にも目を向ける。
爛々と輝くその目はまるで獣のようであまりにも強い眼光に恐怖からか鬱の腕にはぽつぽつと鳥肌が立った。
「⋯⋯鬱ですぅ、どうもよろしく。大先生でも鬱でも好きなように呼んで頂いて」
はは、と薄ら笑いでルイの手を引いてゾムを警戒するようにルイを下がらせる。しかしゾムはそれすらも跳ね飛ばしてニパッと笑った。
「そんな警戒すんなって、寂しいやんか」
吊り上がる口角にひたすらに鬱は嫌な予感がした。どこかぽや、とした様子でゾムをみているルイをどうにか引っ張りだして逃げ出さねばと思うものの鬱の足は恐怖でぴくりとも動きはしなかった。ルイちゃん、ルイちゃん、お願いやから危機管理能力働かせて！ と横にいるルイに鬱は目線を送る。
その瞬間、間髪入れずに鬱は蜘蛛の糸によって縛り上げられてしまった。きっとゾムと名乗った男の能力だろう。声もあげる隙もなく口まで塞がれた彼は叫ぼうにも何もできない、ゾムはにたにたと笑い、一歩ずつ着実にルイに近寄っていた。彼が何を考えているのかは下に転がされた鬱にはすぐに分かった。
それでも尚、ルイは取り乱すこともなくただじっと遠くを見ていた。
否、彼女の目線はゾムよりもずっとその先をみていたのだ。
深淵の瞳を持つ、おどろおどろしいナニカの口から何かがビチャビチャと吐き出される。その瞬間、ナニカは抜け殻のように動かなくなってしまった。
それをルイだけがみている。ルイだけが気付いていた。
吐き出されたナニカがうごうごと細胞のように蠢いてゾムの後ろでまたその形を
そっとルイの腕を掴むゾムの手。
欲が孕むその瞳に土気色をした顔のルイは「下半身でモノ考えてないで状況考えたらどうですか！！」と叫び、男にタックルをした。
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作者名：臓臓臓 | 作成日時：2020年8月5日 10時
