【!】終末の嗤い方。Ⅱ (ページ36)

今日:167 hit、昨日:2,737 hit、合計:171,172 hit

　○　引き金ページ36

.

　ルイは震える両手で小さな女の子を抱き抱えながら走っていた。至る所で押し寄せてくるゾンビやナニカの触手から逃れようと、乾いた銃声が鳴り響く。その横目ではナニカの触手を受け入れようと手を伸ばすエーミールがみえた。ザワザワと何かが逆立つような感覚が纏わりついて、足がもつれそうになるがバカでかいロボロの声に脳がビンタされたような感覚がしてどうにか耐える。

「お前ら下がれ！！クソ、なんやこのゾンビの量！なんでこんなおんねん！」

　ロボロの声につられ、ルイも前を向くととんでもない量のゾンビがあ"ーあ"ーと唸り声をあげながら行進していた。

「チッ、しゃあないな。俺がコイツら誘き寄せて道を作る。ええかルイ、お前あんま無茶すんなよ」

　若葉色の瞳がルイを射抜く。ルイは口を少し慌てたようにぱくぱくさせて、こくりと頷く。ゾムの忠告はごもっともだったからだ。

「ロボロ！手榴弾くれ！」
「ッくそ、緊急事態やから仕方なくやからな！」

　数個の手榴弾を満足そうに受け取ったゾムは蜘蛛の糸を出して空に高く舞い上がっていった。

「むりむりほんま無理！こんな大量のゾンビどうやったら押し退けたらええの！いや〜！！死にたないよぼく〜！」
「無理無理うるさいねんお前ェ！！銃渡したんやからずっとぶっぱなしとけ！」
「おねえちゃんこわいよ！！やだあ！！！」
「うるさいガキ！！泣くな喚くな殺すぞ！」
「あああああああ！」
「アンタら右からゾンビきてますって！！」

　阿鼻叫喚だった。ギャーギャーと殆どの人間がパニックなる中、ただルイだけは妙に冷静だった。目線はただ1つに向けていた。否、目線を外せなかったのだ。
　こつり、こつり、と歩みをこちらに進めているエーミールのせいだろう。ナニカに何をされたのか。ゾンビはもう既にエーミールを人間としてみていないのか、襲われることもないままその間を縫ってこちらに近寄ってくる。遠目からみたその右半身には黒い筋のようなものが身体を蝕んでいた。

「……ゾンビに感染してる、？」

　ゾンビに感染しているというよりはあれはまるでナニカに、成りかけているような。その身体から出た触手、頭上からは避けようもない瓦礫。
「おねえちゃん！！」
　小さな女の子がルイを押し倒すように倒れ込む。名前も知らない10歳に満たないほどの小さな女の子がルイを落ちてきた瓦礫から庇ったのだ。

.