○ 無力 ページ34
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頬の濡れた感覚、べっとりとついた血だった。ルイは少し不快そうな顔をして、ゆっくりと拭う。そして震える身体を片手で抱き締めるようにおさえ、男を見据えた。それをみてエーミールはくすくす笑って「ああ、そんなに怯えんでも……何もしませんから」とゆっくりと瓦礫の上に座り込む。
「私は未来や過去を“映像”として蝶が映し出してくれる能力を持っています。今この状態はそれらを応用した私の
ふわりとルイの目の前を横切った蝶が映像が乱れたようにジジジと音を立ててノイズが走り、その言葉が本当なのだとルイは悟り、
「独り転々としながらこの人々のゾンビ化の原因が何か探っていたんですがある日を境に未来がとある1つの映像から何もみえなくなってしまったんです。過去はいくらでも見ることはできましたが、未来は見えない」
それは何故だと思いますか、とまるで学校の先生のように問いかけるエーミールにルイは眉をひそめ、考え込む。
そして何かに気が付いてしまったかのように目を見開いて、その鈍い鉛色の双眸をエーミールに向けた。
「……ここで死ぬンですか」
あまりにも直球な言葉、それでもエーミールは満足気に「ええ、正解です」と頷く。
「“この場所では”私はゾンビ化し、貴女に殺される。つまりね、貴女は私の運命を終える人なんです」
「……み、未来は、ッ、変えられないんですか？」
「……今のところ一度も成功した試しがないので、まあ無理かと」
けろりと言うには重すぎるモノがあった。会って何日も経たない男の命を奪わなきゃいけないなんて誰が想像できるのだろう。ルイは思わずきゅ、と唇を噛み締める。
「それに殺されるのが貴女でよかったと思ってるんですよ。子どもを庇い、慈しみ、涙を流しながら私を殺す貴女は綺麗でした。何度その映像を繰り返しみたことか！
───ね、貴女に殺されるなら本望や」
そう覚悟した男の顔はひどく疲れきった顔をしていた。死にたくもない癖に覚悟したような顔をして、覚悟の決まったふりをしているだけなのだ。
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作者名：臓臓臓 | 作成日時：2020年8月5日 10時
