○ ページ31
.
ゾムが勘違いして先走ったと頬をどこか赤くするルイにケタケタと笑い、笑い飽きるとその肩に腕をかけてそっと耳元で「キスでええよ、大先生の前でキスしてや、今ここで」と囁いた。
「……そしたら、あの子を連れてってもいいんですね」
にたりと笑うその顔をルイは同意とみなし、鬱が横にいる中でそのままゾムにキスをした。その光景を見て、鬱はぐっと息を飲む。大事なものをとられたような、こどものような癇癪を起こしたくなる気持ちがグワッ、とわき上がって萎んで最終的には引きつった顔で
「ナニコレ寝取られ？ ぼくのおもちゃ何やけど、キスせんといてくれる？」
といってヘラりと笑い、続けようとしたゾムとルイの身体を引き剥がした。
それを不満そうに口を尖らせゾムは睨んだ。
「付き合ってへんのに独占欲だけは1丁前やな大先生」
「……ホンマに黙れや、行くでルイちゃん」
ぐっ、と引っ張られる感覚。力加減のできていないソレはゾンビの大群に襲われたあの時のことを思い出させる。人気のない廊下、暗闇と月明かりが二人を照らしていた。
ただあの時と違うのは彼女が自分の意思を持てるようになったことだ。ぐ、と無理に立ち止まる。力があの時より少し強くなったのか、それとも鬱が弱々しくなったのか、思っていたよりも簡単に立ち止まった。
そしてルイは鬱の顔をみて、驚いたように目を瞬かせた。
「え、な、なんで泣いてるんですか」
ぽろぽろと泣く鬱はひどく弱々しくて情けなくて、梅雨の紫陽花のように美しくみえる。
ルイはそっとその顔に触れる。その手に擦り寄るように鬱は顔を寄せてその手を上から握り締めた。
「ルイちゃんのことがすきや、ずっと、ずっと前から本当は好きになっとった。変わる君が怖くて、でもホンマは素直に尊敬しとって、ただそばに居たい。君以外にこの
「好きになってホンマにごめん、ぼくみたいな情けなくてどうしようもない男がすきになってごめん」
愛の言葉はひどく情けなくて、でもあの飄々としたはずの男からは考えられなくらいひどく純情だった。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1663人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「wrwrd」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：臓臓臓 | 作成日時：2020年8月5日 10時
