○ 一時的な平和 ページ12
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「なぁ、ルイちゃん、なぁって⋯⋯」
「ちょっと動かないでください」
「⋯⋯アイツがシャワー浴びてるウチに逃げた方がええんちゃうのこれ、絶対アイツヤバい奴やん」
だからほら動かないでください、とルイは鬱のぼろぼろになった足を手当てしながら見上げる。こそこそと逃げようやと耳打ちしてくる鬱にルイは「そんなことしたらそれこそ殺されますよ」と返した。
鬱の足はガラスや小さな石が刺さり見るに堪えないほどの怪我をしている。あの時の、逃げていた際のものだろう。みるのは勿論、取り除くのも気持ち悪いだろうにルイは淡々とその作業をしている。鬱は小さな石やガラスが足の裏から取り除かれる度にビクリと身体を揺らし、涙目でルイを見下ろす。
はぁ、と全部を取り除き終えたのだろうルイがからんと銀のトレーの上にピンセットを置くと遠慮なく消毒液をぶっかけた。言わずもがなすぐに鬱の悲鳴が上がる。
「ギャア！！！ 痛い！！ チョォ！待ってや！ルイちゃん！？ せめてなんか聞かへん！？」
「かけますね」
「遅い！！！！！」
コントみたいなやりとりの中でルイは少し不器用ながらも鬱の足の裏の応急処置を終えると、後片付けを始める。ルイの後ろでは いたぁい、としくしくと泣き真似をしながら擦り寄る鬱、そんな男にルイはされるがままだ。
「ルイちゃん、ぼくのことちゅき？」
「変な絡みやめてくださいよ、嫌いです」
「ばり直球！ でも奇遇やねえ、俺もルイちゃん嫌いやねん」
にぱーっ、と赤子のように笑いながら嫌い嫌い言いながら抱きついてくる鬱は言葉と行動が明らかに矛盾していた。でもそれが彼だ、とルイは知っている。
「⋯⋯アイツに殺されかけても助けんよぼく」
拗ねる様子はまるで選んでもらえなかった子どものようだ、とルイは思ったが口には出さずに「大丈夫ですよ」と何が大丈夫なのかは知らないがただそうなんとなく返す。
「あの人が光だなんだって言ってる間はたぶんきっと殺されないと思うんです」
ルイの直感はそう言っていた。
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作者名：臓臓臓 | 作成日時：2020年8月5日 10時
