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「あれ、ヒカルくん出かけるの?」
珍しく朝早くから支度をしているヒカルにそう問うと「まーな」と曖昧な返事が帰ってくる。
「どこ行くの?」
「囲碁教室。時々打たせてやんねーとこいつがうるせーんだもん」
「ふーん…ねぇ、私も行きたい!」
「はぁ?お前囲碁なんかわかんないだろ」
「わかんないけど…ヒカルくんや佐為さんと遊びに行きたいし」
するとヒカルは返答に窮し、顔を背け「勝手にしろ」と言ってソファに座ってテレビをつけた。
私の準備を待ってくれてるんだ、そう思うと口角が上がってにやけてしまう。
「早く準備するから待ってて!」
そう伝えて自室に戻り急いで外出の準備をした。
「囲碁教室、私も勉強したかった…」
「う…仕方ねーだろ、でもおばさんに碁会所教えて貰ったし…な、佐為」
「はい♡」
囲碁教室に行ったはいいものの、ヒカルが阿古田さんという男性とトラブルを起こしたせいで先生に追い出されてしまった。あの様子を見てこれが一度目じゃなさそうだ。
運良く近くにいたおばさんに囲碁が打てるという碁会所を教えて貰ったため、現在そこへ向かっている。
「あら、こんにちは。どうぞ」
碁会所に着き中を覗くと、ほとんどの客が年配の男性だった。
ヒカルの方に目をやると、それに驚いてる様子ではあったけれど臆したりはしていなかった。
「二人は姉弟かな?名前書いて下さいね。ここは初めて?」
「ここも何もまるっきり初めて…誰でも碁が打てるの?」
「打てるわよ。貴方は?」
「私も…ルールすらわかんなくて」
名簿に名前を書く。
棋力はどれくらいかと受付の女性に聞かれるが、私とヒカルは目を合わせて頭にはてなを浮かべる。
そんな私達に女性は不思議そうな、戸惑ったような表情を浮かべた。
「あ、なんだ子供いるじゃん!」
そう言ってヒカルが指を指したのは、隅の方で一人でいたヒカルと同じくらいの男の子だった。
彼はヒカルの声に気が付き「え…ボク?」と自分を指さした。
ヒカルは彼と打つ気でいるようだが、受付の女性は「うーん」とそれに否定的な表情を見せた。
「対局相手を探してるの?いいよボク打つよ。…貴方は?」
「私は囲碁のルールもまだわかんなくて…ヒカルくんと打ってあげて」
そう伝えると、二人は奥の方へと向かう。
彼は塔矢アキラというそうで、どうやらヒカルと同い年らしい。
彼のおかげで私とヒカルの席料がタダになったため、心の中で彼にお礼を言った。
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作者名:ちゅぴ | 作成日時:2022年9月10日 2時