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その後、ヒカルから佐為に会ってからこれまでのことを聞いた。
佐為は平安時代の碁打ちであったこと、無念な死を遂げ200年前に一度蘇ったこと、それからまた魂が碁盤に宿りヒカルの心に蘇ったこと、そして現在神の一手を極めようとしているということ。
「な、るほど…理解はできた…のかな。それでヒカルくんは碁を打ってるの?」
「仕方なくな、こいつうるせーもん。俺は碁なんかに興味ねーってのに」
「そんなぁ!碁はとても魅力的ですよ!」
二人はそこから言い合いをはじめる。私は蚊帳の外で、そんな二人をぼーっと見つめていた。
触れることができないと知るまで、私の目には佐為がただの人間に見えた。
それなのに私やヒカル以外の者には佐為を見ることさえできないなんて。
あまりにも非現実的で、ふわふわとした感覚になる。
ただぼーっと見ているだけの私に彼らが気付きヒカルは「悪ぃ」と頬を少し赤らめながら謝った。
ヒカルがこちらに顔を向ける瞬間、前髪の金色が照明に照らされキラリと光った。
それに引き付けられるように、私の右手が彼の髪に伸びた。
指に彼の金色の髪が絡む。彼の髪はとても柔らかくすんなりと私の指をすり抜けた。
「な、にすんだよいきなり!」
「!ご、ごめ…!」
ヒカルに手を振り払われたことによってハッと正気に戻る。
右手にはまだ先程の感覚が残っており、きゅっと拳を握った。
「ヒカルくんもちゃんと触れるかなって…」
「当たり前だろ!お母さんと話してたじゃん!」
「あはは、そうだよね…」
流石に「綺麗だったからつい」なんて言ったら気持ち悪がられると思い、咄嗟に嘘をつく。
ヒカルの頬はまだ少しだけピンクがかっており、「ったく…」と小さく呟き前髪を手ぐしでといた。
「じゃあそろそろ自分の部屋に戻るね。ヒカルくん、佐為さんおやすみなさい」
二人の「おやすみ」と言う声に小さく会釈をし、ヒカルの部屋の扉を開けた。
自分の部屋に戻り、おばさんが用意してくれた布団を敷く。
見慣れない部屋で一人眠るなんて、色々考え込んでしまいそう。そんなことを考えながら布団へ潜る。
豆電球のオレンジ色を見つめながらヒカルや佐為のことを思い出す。
先程まで話していたものの何だか嘘みたいと感じる。このまま眠って目が覚めると自分の家の自分の部屋のベットで目覚めていそうで。
それは何だか嬉しいような、悲しいような気もする。
考え込んでしまうという先程の予想とは違い、彼らのことを考えているうちに私はゆっくりと眠りについていった。
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作者名:ちゅぴ | 作成日時:2022年9月10日 2時