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「見てください!ヒカル!A!大きな魚!」

長い髪を揺らし、興奮が収まらないといった様子で水族館を駆け回る佐為。
館内では走らないように、なんて注意書きが書かれているが誰も彼のことなど気にしていなかった。それは彼が私とヒカルにしか見ることの出来ない幽霊であったからだ。

佐為の一歩後ろを着いて歩く私とヒカルは、水槽からボンヤリ漏れた光に照らされる佐為の楽しそうな顔を見つめていた。
ちらりとヒカルに視線をやると、初めての水族館ではしゃぐ佐為を見て面白そうに、そして自慢げに目を細めていた。


今日はババ抜きで決めた”一緒に遊びに行く”日だ。
ヒカルと共に出かけることは何度かあったが、囲碁以外の用事で遊びに行くことは初めてだった。

「あ、クラゲ。可愛い」
「可愛い?クラゲが?」
「うん、それに綺麗」

ヒカルはそれを聞いて「どこが可愛いんだよ」と呟いた。
確かに、どこがと聞かれると答えにくい。顔をガラスの壁に近づけて優雅に泳ぐクラゲをじっと見つめる。

「なんかフォルムとか…小さいのがたくさんぷかぷか浮んでる感じ?」
「ふーん…」

ヒカルも私と同様ガラスに顔を近づけクラゲを見つめる。
彼の瞳はクラゲを真っ直ぐ捉えていたが、私は突然彼の顔が近づいたことに驚き息を止めた。

「確かに、可愛いかも」
「っだ、…よね!」

可愛い、とクラゲを評価するヒカルと目が合った。
お互いの距離が近かったせいか、それとも彼が言った可愛いという言葉のせいか、緊張と動揺を隠せず私の声は裏返ってしまった。

後退りをしてさりげなく距離を取った私にヒカルは不思議そうなキョトンとした瞳で私を見つめた。

「Aっ、ヒカルっ!見てください、これ!黒と白…何だか碁石みたいですね」
「ほっ、ほんとだ!かわいい…!」

ドギマギしていた私に気がついていなかった佐為は私とヒカルの間に割り込み白と黒のクラゲを指さした。
私は佐為の声に何故かホッとしてため息をついた。そんな自分に疑問を抱きながら佐為が指さしたクラゲを目で追った。

「碁石で思い出したけど、今日帰りに碁会所寄って行く?佐為さん、碁を打ちたいって言ってたよね」
「…!そうですA!碁を打ちましょうヒカル!」
「…あーもうわかったよ!」

ヒカルの同意を得ると、佐為は今日一嬉しそうな顔をして飛び跳ねた。どうやら佐為には魚より囲碁らしい。

「でも囲碁はイルカショーを見てからだ!」
「ちょ、ヒカルくん!」

イルカショー、そう言ってヒカルは私の手を取り走り出した。
後ろからは「イルカ!?どんな魚です?」と浮かれた佐為の声と「こら君たち走らないよ!」とスタッフの注意する声が聞こえた。

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作者名:ちゅぴ | 作成日時:2022年9月10日 2時

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