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それから数分間私とヒカルは雪玉を投げ合っていた。それを楽しそうに見物する佐為は雪玉が当たることはないので少し羨ましいと思った。
体力の限界がきて、その場に仰向けになって倒れ込んだ。
雪のクッションで体に痛みはなかったが背中がひんやりと冷たくなった。
ヒカルも私の横に倒れ込み、大の字になって二人並んだ。私達は何も喋らずただ空を数分間見つめていた。
乾ききった冷たい空気が鼻の奥をツンと刺す。ヒカルの顔を見てみると寒さで頬や鼻がピンク色になっていた。きっと私の顔も彼のようになっているのだと考える。
何だか猛烈にヒカルに触れたくなり、彼の方へ寝返りを打ってヒカルに覆いかぶさった。
ヒカルはそれに「重い」と言ったが「どけ」とは言わなかった。
それが何だか嬉しくて、彼に腕をまわしてぎゅっと抱きしめた。
すると彼は余計顔を赤くして「どけよ!」と私を押しのけようとしたので少し複雑な気持ちになった。
「やだ」と言ってもっと強い力で彼を抱きしめると、ヒカルは諦めたようにため息をついて力を抜いた。
「なんかこうしてると寒いけど暖かいね」
「俺背中冷たいんだけど」
「ごめんね、ヒカルくん」
「どかねーのかよ」
目を瞑っているとこんなにも寒いのに眠たくなってくる。それはヒカルといると落ち着くからというのもあるのかもしれない、なんて考える。
目を開けてヒカルの頬をつまむ。彼の頬はとても冷たくなっていたが、私の指も同様であまりそれを感じることができなかった。
ヒカルは「何すんだよ」と言って私を睨む。この目をこの数ヶ月で何度見てきたんだろう、そう思うと笑みが溢れた。
「来たのがヒカルくんの家で良かった。…おばさんもおじさんも優しいし…佐為さんは最初はびっくりしたけど優しくて可愛いし…何よりヒカルくん…なんか弟ができたみたいで毎日楽しい」
面と向かって伝えるのが照れくさくてヒカルの肩に顔を埋めてそう伝えた。彼と目を合わせて言うなんてとてもできない。
ただヒカルが今どんな顔をしているか、何を考えているかわからないのでたった数秒の沈黙がとても長く、怖く感じた。
「…俺も、姉ちゃんできたみたいな感じで…Aが来て…楽しくなったぜ」
ヒカルは声量がどんどん小さくなっていった。それでも私の耳には彼の言葉が最後までちゃんと届いた。
思わず口角が上がってにやけてしまうのを隠そうと顔を上げられないでいたが、ヒカルが震える私の肩に気づき笑っているのを察した。
再びどけ、と言うヒカルに体を押しのけられたので立ち上がった。
ヒカルの顔を見てみると、先程とは比べ物にならないくらい真っ赤に顔を染めていた。
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作者名:ちゅぴ | 作成日時:2022年9月10日 2時