【ヒカルの碁】弟なんかじゃいられない (ページ20)

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「佐為…打って…」

ヒカルは下を向いてそう囁いた。
佐為が「私に出てくるなって言ったくせに」と意地悪を言うとヒカルは目に涙を浮かべ、彼は慌てて謝る。
そして言った。「二人で力を合わせれば逆転できる」と。

ヒカルは涙を拭い石を打つ。
先程目を輝かせて自分で碁を打つと言っていたヒカルを思うと胸が締め付けられる。
ぎゅっと拳を強く握り、彼らに聞こえるか聞こえないかの声で「頑張れ」と呟いた。

結果は二勝一敗。決勝への道を決めた。
部屋に戻った筒井がそれを知り、感動で涙を流した。
それも束の間、彼に加賀は定石についての書籍を勝つために捨てろと言う。
そんな加賀を見て、不良と呼ばれている彼だけどカリスマ性や人を引っ張る能力は人一倍なのだと感じた。

「ねぇ、加賀くん」
「あ？」
「さっきヒカルくんに言ってた大会に優勝できなかったらってやつ、ほんと？聞いたことないんだけど…」

その問いに加賀はニヤリと悪い笑みを浮かべて「さぁな」と呟いた。
(うわ…悪いヤツ)
そう思ったが、邪魔するわけにはいかないと口を閉じた。

決勝が始まる。その時にはもうギャラリーがヒカル達を囲み、そのギャラリー達の背中しか見えない状態だった。
仕方ないので、一度外にでて彼らの対局が終わった後に渡すための飲み物を買ってこようと決めた。

(えっとこの辺の地図は…)

地図を探すため視線を外すと、扉の前で誰かとぶつかり尻もちをついた。
慌てて「ごめんなさい…！」と言って顔を上げるとそこには先日会った塔矢アキラが立っていた。

彼もまた「いえ、僕の方こそすみません」と謝罪の言葉を口にするが、私に気がついたようで「貴方は…」と小さく呟いた。
瞬間彼は爽やかな笑顔を向け、「山下さん、囲碁部だったんですね」と言ってこちらに手を差し伸べた。
何だか照れくさいけれど、先に小さく会釈をしてその手を掴み立ち上がる。
まだ小学生なのに何故こんなに紳士なのだろうと心の中で呟いた。

「…あ、大会に出てるのは私じゃなくてヒカルくんなんだ。…秘密ね？年齢誤魔化してるから…」
「進藤…ヒカルが！？」

ヒカルの名前を口にすると、彼は血相を変えて「彼はどこに！？」と問う。
それに「今決勝戦、だからあっちで打ってるよ」と伝えると、彼は直ぐにギャラリーの間をくぐり抜けてヒカルの後ろに立った。

そんな塔矢を見てヒカルに対しての強い思いを感じたが、飲み物を買いに行くために彼とは逆方向に歩き出した。