【ヒカルの碁】弟なんかじゃいられない (ページ15)

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帰り道。何だか空気が重く、地面を踏む音が大きく聞こえる。

「ヒカルくん…」
「…何だよ」
「いや、別に…うーん…」

この空気を壊すべく話しかけてみたはいいものの、こういう時に何を言えばいいのかわからなくなる。

ぼーっと歩くヒカルとそれを心配そうに見つめる佐為を一歩引いて眺める。
やっぱりこの空気が嫌だと思い、なにか話題はないかと周りを見渡した。

「あ！ヒカルくん！あれ！」
「あー！もう何だよ！」

ヒカルの腕をグイグイと引っ張り指を指したのはたい焼き屋。注文すればその場で焼いてくれるシステムで、今の寒い時期にピッタリだとヒカルを連れていく。

「俺金ねーよ！」
「いいのいいの。お姉ちゃんが奢ってあげるから」
「誰がお姉ちゃんだ」

何味が良いかヒカルに聞くと、「餡子！」と目を輝かせながら答えた。
その様子にホッとしながら、店員に「餡子とカスタード1つずつください」と言って注文した。

「わぁ…これも私は初めて見る食べ物です」
「たい焼きって言うんだよ。佐為さんにも食べて欲しかったなぁ…はい、ヒカルくん」
「ありがと」

近くのベンチに腰掛けてたい焼きを食べる。
先程痛いほどに冷たく感じた風は、できたてのたい焼きの温かさで緩和されていくように感じた。

枯葉が落ちていく様子を横目に、一口ずつじっくり味を噛み締めながら食べる。
それはヒカルも同じで、会話はないけれど心地良く、いつもより時計の秒針がゆっくり動いているかのように感じた。

「ヒカルくん、カスタード一口あげるから餡子一口ちょうだいよ」
「ん、いいよ」

ヒカルはまだ口にたい焼きを含ませたまま返事をする。
それが可愛くて頭を撫でようとすれば、またいつもの様にその手を跳ね除けられた。

たい焼きのまだ口をつけていない部分を手でちぎってヒカルの方を見る。
ヒカルは視線に気がついたようでこちらを見つめ返した。

本当は手渡しであげるつもりだったが、こちらをじっと見つめるヒカルに悪戯心が働いて「あーん」と言って手に持ったたい焼きを彼の口に近づけた。

するとヒカルはぶわっと一気に頬が赤く染まり、顔を背けて私の手を掴んで必死に抵抗した。

それでも小学生と中学生なのだ。
ヒカルの必死の抵抗も虚しく無理やり彼の口にちぎった分をねじ込んだ。

それを見た佐為は袖を口に当ててクスクスと笑った。
つられて私も笑ったが、ヒカルだけは顔を赤くし、口をもぐもぐさせながらこちらを睨んでいた。