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ヒカルは塔矢の真剣な顔に圧倒されながらも、囲碁のプロの収入について聞いた。
塔矢は数々のタイトル戦での賞金を教える。
ヒカルはその賞金の高さにヨダレを垂らし、「まぁまぁちょっとだけさ」と佐為との会話を思わず口にした。
それに引っかかった塔矢がヒカルに問いかけると、ヒカルは「ちょっとプロになってちょこちょこっとタイトルのひとつやふたつ取るのも悪くない」と冗談半分で言った。
それに塔矢は「プロの人すべてを侮辱する言葉」と言ってヒカルに怒鳴った。
ヒカルは何故怒鳴られているかもわからずあたふたしていたが、塔矢は続けて言った。
「今から一局打たないか」
「えっ」
ヒカルは戸惑い躊躇したが佐為の押しの強さに負けて、それを受け入れた。
私は蚊帳の外で、二人のやり取りをただただ見ていることしかできなかった。
「わ、私帰った方がいい、よね…」
そう言うと、ヒカルは私の服の裾を引っ張りこちらをじっと見つめた。
ヒカルは睨むような鋭い目をしていたため「お前だけ逃げるな」という意味での行動だということに気がついてはいたが、ここにいても良いと言われているように感じてしまい胸が締め付けられた。
塔矢も「構いません」と言ってくれたので、私も以前行った碁会所に行くことになった。
碁会所に着くと、中にいたお客さん達が一斉にこちらを見てざわめき始めた。
どうやら塔矢に勝ったことでヒカルの顔が覚えられていたようで、私達の周りは一瞬でギャラリーに囲まれた。
「お願いします」という塔矢の声で対局が始まった。
彼が碁石を握り打つ。その音はとても迫力があり、塔矢の怒りを感じた。
「……ありません………」
結果はヒカルと佐為の中押し勝ち。ヒカルはそれに戸惑いを隠せていない様子だった。
がっくりと肩を落とし下を向く塔矢。
そんな彼を励ますようにヒカルが声をかけるが、彼は何も聞こえていないようだった。
先程私だけが疎外感を感じていると思っていたがそうではなかった。ヒカルも同じだった。
塔矢アキラの目には佐為の打つ碁しか捉えていなかったのだ。
「俺帰るよ…じゃあな…」
「ヒカルくん…あ、ありがとうございました」
彼らに向けて小さく頭を下げた後、ヒカルの後を追っていった。
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作者名:ちゅぴ | 作成日時:2022年9月10日 2時