【ヒカルの碁】弟なんかじゃいられない (ページ2)

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「こんにちは。今日からお世話になります、山下Aです」
「いらっしゃい、Aちゃん。さ、あがってあがって」

今日から母の友人である進藤家に居候させてもらうこととなった。
にこにこと笑うおばさんと目が合い、何だか照れくさくて「お邪魔します」とだけ言って玄関をあがった。

一度挨拶に来た時ここへあがったけれど、今回はここに住む者としてこの家に足を踏み入れるのだ。緊張と不安で足の踏み込みに思わず力が入り、手に汗が滲んだ。

「ふふ、そんなに緊張しなくても大丈夫よ。そうだ、前Aちゃんが来てくれた時ヒカル…息子に会ってないわよね」
「あっ、そうですね、丁度外出してたみたいで…」
「ちょっと待ってね、今呼んでくるから」

そう言っておばさんは大きな声でヒカルという名前を階段から2階の方に向かって叫んだ。
すると「なんだよ、うるさいな」と文句を言う声と階段を一段ずつ下っていく音が聞こえた。

「ヒカル、ほら話してた」
「あ、今日から家に来るっていう？」

そして最後の一段を降りた彼を見て、私は思わず「あ！」と大きな声を出してしまった。

降りてきたのは1人ではなく、2人いたのだ。
それは先日街で見かけた小学生くらいの男の子と平安時代からタイムスリップしてきたかのような格好をした男の人。

(今日もあの人あの格好してるんだ。ていうかおばさんあの人のこと一言も話してくれてないけど一体…)

そんなことを考えている間もなく、先程の私の大声で皆が一斉にこちらに振り返り私を見つめた。
やらかしたという気持ちといきなり叫んでしまったことへの恥ずかしさで体が固まる。

「あ…ごめんなさい！街ですれ違った時があって…その…印象強くて覚えてて」
「あら、ヒカルを？また何かしたの？」

それに「いや、その子じゃなくて…」と呟くとおばさんはこちらを不思議そうな顔で見つめていた。
それに気がつき、また恥をかくまいと「全然、そんなことないです」と首を振って返事をした。

「えっと、ヒカルくん、今日からよろしくね」
「…よろしく」

先程彼に向かって叫んでしまったことで気まずいながらも彼と軽く挨拶を交わす。
後ろの男性にも挨拶をと思ったが、おばさんから紹介されていないことを思い出して何も言えなくなる。

「それじゃ、Aちゃんの部屋に案内するね」
「あ、はい！」

そうしておばさんとヒカルは私に背を向けたが、もう1人の男性の瞳はまだ私を捉えていた。

何だか彼から強い視線を感じるが、目を合わせることができない。
視線を逸らしたまま彼に小さく会釈をし、前を歩く2人に着いて行った。