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オフィスを歩いていればどこからともなく聞こえてくる噂話なんだ、うちの社員じゃなくとも社内をまわって清掃していた小瀧くんならどこかで一度は耳にしたことがあったはず。その噂話にでてくる男性が俺だと聞かされてどんな顔してる？
「びっっっくりしたあー…てっきり俺がここに預けられるのかと思ったから……息子さんですか？いくつ？可愛いねえ！」
ドン引きしてるんじゃなかいと思って振り返れば、俺のもとへてけてけ走ってきた息子の智洋の目線にあわせてしゃがみ込んで可愛い可愛いと目尻をさげて話しかけているではないか。案外いまのひとのほうが離婚やシングルファザーであることに偏見がないのか、そもそも他人に興味がないのか…どちらにせよ余計な詮索をしてこないのは居心地がよかった。
「……ぱぱ」
「ちょ……智洋、帰るで。こっちおいで。」
ただ突然見知らぬ男性に絡まれた智洋がビビって固まってしまったのでだっこして異動に伴い引っ越したアパートに帰る──が、相変わらずうしろには小瀧。
普段ならこんな得体の知れない人間を簡単に家にあげたりしないけど、アパートに着いて鍵をあけようとした時に聞こえてしまったんだ。ぐぅ、と。彼のおなかの虫が鳴く声が。視線を向ければ捨てられた仔犬のようにきゅるきゅるした目がこちらを向いていた。
相手はほぼ他人。
しかし、目の前で困っているひとを見過ごせるほど無慈悲ではないし、昨日助けてもらっている手前見過ごすことはできない…どうしよう……悩んでいる俺のズボンを掴んで不思議そうに見上げていた智洋はてとてとかけっこで小瀧に近づき、小さな手を伸ばしてふわりと頭をなでた。
「……わんわん」
家にいる時はごはんとお風呂以外ずっと犬のぬいぐるみと一緒に過ごし、うまれてはじめてしゃべった単語が「わんわん」だったくらい智洋は犬が好きだった。
「智洋。野良犬にはエサあげたらあかんねんで？」
「……のら……わんわん？」
「そう。エサあげると家に住み着いてまうからさ」
「ん」
なんのこっちゃわかっていないけど小首を傾げていた智洋はこくりと頷き、チャーハンをくちに運んだ。
「ちょお！そのエサとやら作ったのは俺やけど！？」
仕方なしに小瀧を家にあげて、何か食べるものを適当に作ろうとしたが離婚してはじめて家事に触れた俺が最も苦手としているのが料理──台所借ります、と小瀧は手際よくチャーハンを作りあげた。
「………うまっ」
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作者名：26 | 作成日時：2022年10月21日 0時
