３１ ページ31
.
「ん、ほんまや。淳太から俺の匂いする！」
淳太にしがみついているともくんごと抱きしめて淳太の首元にくんくんと鼻先をすり寄せるとふわりと俺の匂いがするのがたまらない。くすぐったそうに身体を縮こめているけどお構いなしに嗅がせてもらっていると「ともくんくるちい」の声にハッとして身を引いた。
「のんちゃん…！」
「ご、ごめん、淳太もともくんも」
「ったく──あっ、ともからものんちゃんの匂いする」
「ともくんものんちゃん？」
「うん、パパとおそろいや」
「んへへへ、やったあ」
なんですか、このハッピーセット…俺のこと殺めようとしてるんかな。嗚呼、可愛すぎて胸が痛いです。
「その可愛い親子、俺の嫁と息子やねーん！」
「…はいはい、何回も聞いたしとっくに知ってる」
毎回文句を言いながらも俺の惚気話を聞いてくれるから暇さえあれば流星の店に来て長居してしまう。
「で、今日はその可愛い嫁と息子はどうしてん」
「……………ふたりでしげ…弟さんのとこ行ってる」
「あのブラコンとかいう？」
「そう。あのひとチケット３枚しかないから小瀧はごめんな〜ってスネ夫みたいなことしてくんねん！」
「あはは、どんまい」
「だから今日は久しぶりのひとりを満喫すんの」
「言うて帰りたなってるやん」
勝手知ったる流星の店。何かしていないと落ち着かなくてカウンターをくるりと回り、自分が使ったグラスや皿を洗っていく。
「あー！望じゃん！帰ってきたの？」
「…いや」
「あ、飼い主切れたの？うち来る？」
来客を告げるベルに顔をあげれば、見覚えのある女性が駆け寄ってきてぐしゃぐしゃと頭をなでる──嗚呼、流星の店を手伝ってた頃、飼い主ではなかったけど随分可愛がってもらってたような…名前も覚えてへんけど。
「こいつそういうのやめてん、わかったら離れる」
「えー、なにそれー望可愛いのにもったいなーい」
「なあ──…」
「こんばんは。のんちゃん──…あ、すみません」
カランコロン、遠慮がちに顔を覗かせたつぎのお客様は待ちに待った最愛のひと。最悪のタイミングでやってきた。
「なにいまの。冷やかし？」
「──ちょお、そろそろ離せや！！」
流星ごめん。大事な客なのに。あとでちゃんと謝るから。
女の手を雑にふり払い、うしろでキャンキャン吠えてるのも無視で店を飛び出して淳太を追いかける。
→
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 187人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：26 | 作成日時：2022年10月21日 0時
