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ふわふわと微睡みに手を引いてくるの睡魔に必死に対抗してることなど露知らず、あたたかい体温で俺をまるっと包んでおおきな手のひらであたまをなでてくるのんちゃんが取り出した1枚の紙を見たら眠気など屋根まで飛んで壊れて消えた。
「あとは淳太だけ。サインしてくれる?」
「えっ…」
「ベタでロマンチストやからさ」
「いや、え、あ、だって、これ」
数年ぶりです、二度目ましての婚姻届。あとは俺が記入すればすべてが埋まるそれ──証人の欄にはしげと母の名前がよく見慣れた字で記されていた。
「神戸……行ったん…」
「うん。でもな、お義母さまだけやないで、お義父さまにも会うてきた。さすが社長さんやね、貫禄やばくて卒倒しそうやったわ〜!」
「……嘘やん」
「ほんま。見覚えある字やろ?」
「せやけど…」
「弟さんにお願いして、殴られる覚悟で会うてきた」
おとんに会うまえにしげに殴られた、もう関係ないと門前払いされて人生ではじめて土下座した、ギリギリまでおとんとおかんのどちらが書くか揉めたと笑って話すのんちゃんに涙が止まらなかった。
「あんたら兄弟が素直やないのは父親譲りやな」
「〜〜〜〜っ、のんちゃんのあほ!」
「えへへ」
のんちゃんは自分のご両親にもすでに話をつけているらしいけど、あとでしっかりあいさつに伺わせてもらう約束をしてから一緒に寝た。
「のんちゃんがぱぱ…?」
「そう!のんちゃん、ともくんのぱぱになってん!」
「ぱぱは?もうともくんのぱぱやないの?」
「パパもとものパパやねんけど…うーん…」
「ぱぱはともくんのぱぱなのぉ」
「うんうん、ごめん、いきなり難しかったな」
俺だって今日に至るまでたくさん悩んで混乱して、今もパパがゲシュタルト崩壊を起こしかけているんだ、4歳児がすんなり理解して納得できるわけがない。
「パパって呼ばれたかったけどなぁ〜…ともくんにとってのパパは淳太やもんな、しゃーない!」
のんちゃんって呼ばれるのも悪くないし!と気丈に振る舞ってくれているのんちゃんのことをともにパパと呼ばせたいけど、ぱぱぁ〜と俺に泣きついてる姿を見ちゃうとしばらくは難しいかも。
「のんちゃん…ともくんのぱぱとったらめぇだよ」
「え〜。なかよくシェアしよ?」
「しゃ?」
「シェア。わけっこ。してくれる?」
「んぅ…いいよ」
「お、約束やで」
指切りしてるけど、果たして約束は守れるんやろか?
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作者名:26 | 作成日時:2022年10月21日 0時